D-Novel:短編
□今日も魔の手が忍び寄る
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翌朝。
検事局の執務室・1202号室へ出勤すると、私のデスクを拭いているイトノコギリ刑事の姿があった。
「おはようございまッス。御剣検事殿」
「ム。おはよう」
短く挨拶を交わし、デスクへ向かう。イトノコギリ刑事のおかげで、このデスクはいつも顔が映り込む程にピカピカだ。磨きすぎて、書類を普通に置くとスーッと滑って落ちていくのが珠に傷なのだが…汚いより綺麗な方がいい。
「例の件について、どこまで調査は終わっている?」
「ハッ。昨夜の時点で…」
仕事の話をしかけた瞬間、イトノコギリ刑事はその口をぽかんと開けたまま、私の顔をまじまじと見つめて硬直した。
嫌な予感が、私の脳裏をひゅんと勢い良く掠め飛ぶ。そう…彼のこの反応には、見覚えがあるのだ。
「………イトノコギリ刑事」
「……ハ、ハイッス!な、何でもないッス!」
「まだ何も言っていない。それに、君のその態度は、以前見た事があるのだよ」
「……お、俺は何も知らないッス!」
「ここは法廷ではないから、追い詰めるような真似はしたくないのだが…正直に言いたまえ」
意識して声を低くすると、イトノコギリ刑事が目に見えて慌て出す。やはり…やはりそうか。
「君のせいでないのは分かっている。犯人にも心当たりがある。君が証言したところで、私は君を責める事はない…分かるな?」
「……し、しかし」
「言え」
短く。でも鋭く命令をすると、イトノコギリ刑事は折れるしかない。トホホを体現したような表情で肩を落とすと、溜息を1つ吐いておずおずと口を開いた。
「お、怒らないでくださいッスよ?」
「分かっている。あまりにも勿体ぶると、本当に怒るぞ」
「ううっ……その………み、御剣検事の髪、ですが」
「――…」
イトノコギリ刑事からようやく聞き出した真相に、私はひくっと眉間に皺を寄せた。
***
「四葉田さん。私さぁ、今朝面白いの見ちゃったんだけど〜」
「ん〜?」
検事局ロビーにある受付カウンター内で、女性が2人暇を持て余して雑談をしていた。四葉田と呼ばれた女性は、生返事を返しつつ手元の書類の余白にタイホ君らしいイラストを落書きしている。
「見たって、何を?」
「御剣検事」
「え?」
今をときめく検事局の花形であると同時に自分の恋人・御剣怜侍の名前に、彼女は落書きの手を止めてはっと顔を上げる。
「何?何見たの?」
「御剣検事の髪にさ…」
「四葉田杏ー!!!」
同僚が口を開いた瞬間、ロビーに怒号が轟く。呼ばれた本人は目を丸くするが、隣の同僚はその凄まじい剣幕にびくりと肩を震わせた。
ずんずんとこちらへ足早に駆け寄る御剣。遠目から見ても怒り絶頂MAXである事が分かるほどに、全身で憤怒のオーラを発していた。
***