D-Novel:短編

□今日も魔の手が忍び寄る
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私に忍び寄る魔の手の話を、君にしてやろう。



***



その魔の手は、夜にやってくる。もちろん、私がベッドで微睡んでいる時間帯だ。

熟睡ではなく、微睡む。そこを間違えないでいただきたい。私は目を閉じてうつらうつらとしているが、まだ本格的な睡眠状態に入っていないのだ。

だから、忍び寄る魔の手の様子をありありと感じ取る事が出来る。

その手は、小さい。かといって幼児のような小ささではない。明らかに女性のそれで、しなやかにかつ優しげに私に触れてくる。

触れる箇所は、主に私の髪。そっと、だが触られていると知覚出来るタッチで柔らかく触れて、つむじから髪の流れに沿ってゆっくりと毛先へ向かって撫でられる。たったそれだけなのに、至福の喜びを感じるのだ。

時折、髪の一房をくるくると指で絡めて遊ぶ気配も感じられる。暫くそうやって戯れてから、その魔の手が髪の中へ潜り込んで地肌に直接触れてくるのだ。

指の腹で撫で付けるように地肌をくすぐる。決して強くない力加減のそれに、私はますます安らかな気持ちにどっぷりと沈んでいく。

小さく円を描くように地肌を撫でると、魔の手はふっと持ち上がり、はらはらと滑り落ちる髪の感触を楽しむかのように、その一連の動作を繰り返す。地肌に触れて、指先で撫でて、持ち上げて髪を落として…単純な動作のどこが楽しいのか分からないのだが、よくも飽きずに繰り返せるものだ。

私はその魔の手にされるがまま。目を閉じてうつらうつらと夢と現実の合間を漂う。脳が芯からぐずぐずに溶けてなくなっていきそうな、そんな心地よさに体が浸る。

存分に髪を撫でた魔の手は、今度は私の顔中を触れて回る。額や、瞼に羽のように軽やかに触れたり…鼻筋を上から下へつつっとなぞられると、どうにもくすぐったくて思わず眉間に力が入る。すると魔の手の指先は、その部分を強めに押してくるのだ。まるでほぐすかのように。

唇に触るのが好きなようで、つんつんと弾力を確認するように突っついたり、下唇や上唇を交互になぞったりする。しつこいくらいにそうやって触られるというのに、悪い気はしないから不思議だ。

顎の輪郭を魔の手が辿り、耳の裏側へ指先が滑り込んで撫でていく。耳たぶの柔らかさを捏ねるように堪能して、首筋を辿り、喉仏の凹凸を撫でて…

まるで、私という存在の形を理解するかのような、魔の手の動き。それはこの上なく幸せなひとときだ。

こうやって。長い時間を掛けて、魔の手は私を目も眩むような幸福に落としていく。満たされる心を感じながら、私はゆっくりと微睡みから本格的な睡眠へと沈んでいく。



抗えない。

例え、目覚めてから"あのような事"があると分かっていても。



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