D-Novel:短編
□飛行機雲を追いかけて
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「あ゛ーーーーっぢーーーー」
蜃気楼がもやもや揺れるアスファルト。
私は、焼け付く日差しの中で、自転車を一生懸命こいでいた。
「せーの!よっこいしょー!よっこいしょー!よぉーーっこーいしょーーーっ!!」
1人なのをいい事に、品のない掛け声と共に重いペダルを踏み込む。
こんなところ、彼に見られたら眉を顰めて「私より若い癖に嘆かわしい」だなんて言うに違いない。
彼は今、ここに居ないから関係ないけどさ。
「みーつーるーぎーのーー…ばあああぁっか!」
右、左、右、左…ペダルを交互に踏みながら、居ない人へ罵倒。
本当にバカ。
この炎天下に自転車で何十キロってこぐ私が、一番バカ。
どこの暇を持て余した中学生なんだろう。いや、私はもう暇な中学生じゃなくて忙しい社会人なんだけど。
「はぁ、はぁ、はぁ…あぁ」
顎を伝って滴り落ちる汗をそのままに、自転車をこぎ続けると、海にぶちあたった。
白い砂浜の先には青い海。同じような青い空との境目を溶かして、青が永遠に続いているようだ。
そして。頭上高く、飛行機雲が一筋、白い線を引っ張って行った。
海の向こう側へ、遠く遠く。
「ああ〜…行っちゃう〜」
それを見送りながら、私は力なく呟いた。
***