I want youの使い方
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炎が、容赦なく迫り来る。
その隙間を縫うように、バンジークスは奥へと進んでいった。
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凄まじい熱気が、肌の表面に触れる。じわりと滲んだ汗が鼻筋をじっとりと伝い落ちるのもそのままに、バンジークスは來を最後に見た2階を目指して階段を登っていった。遠く頭上から、がらがらと何かが落ちる音が響いてくる。建物が焼け落ちるカウントダウンを耳にしながら、辿り着いた2階をくまなく見て回った。
『ライ!』
呼び掛けても返事をするのは炎がはぜる音とごうごうと燃え盛る勢いだけ。壁も天井も火の手が回っていて、原形を留めていない。まるで炎の迷路のようだ。
『ライ!!』
それでも、バンジークスは先へ進みながら炎に向かって叫ぶ。こんな所を逃げ惑い、さ迷っている彼女を想像するだけで、バンジークスの心はぐしゃぐしゃに掻き乱される――…不安と、焦燥と、諸悪の根元であるあの医師への凄まじい怒りとで。
『……ライ!!』
叫ぶ度に、渦巻く熱気が気管に沁みて痛む。バンジークスは軽く咳き込んだ。熱さで空気が膨張して呼吸するのも苦しい。早く…早く見つけ出さねば……バンジークスが再び呼び掛けようと口を開けた時だった。
『うわぁああああっ!!!』
『っ!?』
突如、絶叫が背後に迫る。振り向き様に手にしたままのサーベルを頭上に翳すと、ガキンッと金属音が弾けた。医師が鉄パイプで襲いかかってきたのだ。初撃を受け止められた医師は、続けて鉄パイプで横凪ぎに払う。間一髪でそれをかわしたバンジークスは、僅かに下がって間合いを取った。
『はぁっ…はぁっ…女神はっ…渡さない!』
『………』
肩で荒く呼吸しながら、医師はこちらを睨み付ける。炎に照らされるその瞳は赤く輝き、まるで彼の胸の内で燃えている醜い執着心を見せつけられているようだ。禍々しい視線を見据え、バンジークスはサーベルを持つ手に力を込めた。
『…我が屋敷のメイドが、随分と"世話に"なったようだな』
『………ふっ。ふっふふふ…メイドだって?これは傑作だ。貴方にとって、彼女はただのメイドか』
愉悦に歪んだ表情で不気味に笑う医師に、バンジークスは眉根を寄せる。
『何が言いたい?』
『言いたい?じゃあはっきり言わせてもらおうか?!何で彼女を単なる下働き扱にしてるんだ!?未来から来た人間…いや、この世の行く末を知る女神なんだぞ!?未来が分かれば全てが思いのままだというのに、何で何もしないんだ!馬鹿なのか!?』
『……………貴様の目的は"予言書"か』
『"予言書"は単なるステップさ。ボクは女神と共に、全ての頂点に立つ……神として』
己の台詞がよほど面白いらしく、医師は1人で肩を揺らして笑っている。やがて薄気味悪い笑みを顔面に貼り付かせ、ゆらりとバンジークスを見た。
『………まぁ。貴方は彼女の"よしみ"で、温情の1つでもくれてやってもいいかなと思ったんだけど』
『………』
『でも。将来的に邪魔な存在になりそうだから……そういうのは早い内に対処しとかないと』
鉄パイプを構える医師。じりじりと迫る医師と慎重に間合いを取りながら、彼もまたサーベルをゆっくりと構えた。
『……素人相手にハンデもやらず、こちらが有利な状況で手合わせするのは些か不本意ではあるが……』
恐ろしいほど凍てついた双眸で医師を見据えながら、バンジークスは呟く。
『こちらとしても手早く済ませたい…連れ帰らねばならん者がいるからな』
『女神は渡さないと言っているだろうっ!?』
激昂した医師が吠え、鉄パイプを振り上げて突進してくる。攻撃を待ち受けるバンジークスは、サーベルをぐっと強く握り直した。
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