I want youの使い方

□13
1ページ/5ページ




夕暮れは、瞬く間に夜を連れてくる。

焦燥感でいっぱいいっぱいな気持ちを懸命に堪えながら、來は月明かりだけを頼りにひたすら"落とし物"を探し回っていた。



***

前屈みの姿勢で、地面を必死に見ていく。座っていたベンチから落としたことに気付いた場所までを、小走りで何度も往復する來の息はすっかり上がっているが、それでも足を止めて休むことはなかった。ただただひたすらに探し回る。

乱れる呼気の合間に、「どこなの〜?」と、か細い呟きが自然と漏れる。今にも泣き出してしまいそうな声音のそれは、静まり返った公園の空気に吸い込まれて誰の耳にも届かなかった……そもそも。誰もいない夜の公園で、彼女の悲痛な声を聞く者はいないが。

いつ、どこで落としてしまったんだろうか。もしかしたら…誰かが拾って、そしてそのまま持ち去ってしまったのではないか。でも、出来上がった"アレ"は細い紐状で、注視していないと見つけられる事はない――…と思う……多分。でもこんなに探しても"ない"のは、もう拾われ――…いや、例え拾われていたとしても、この時代の人は"アレ"が何なのか分からないはずだから、持ち帰ったりはしない…かもしれない。それとも、二束三文くらいにはなるかと質屋に持ち込んでしまったとか。

來の脳裏に、ありとあらゆる推測がぐるぐると巡る。もしかしたら鳥がエサと間違えて持っていたのかも…と、空を見上げて目を凝らすがとっぷりと暮れた夜の空が広がっているだけだった。

「…………」

痛いほどに静まり返る夜空を、來は悲壮な表情で見つめる。自分はなんでこんな肝心なトコでダメなんだろう。込み上げてくる自虐にふっと俯いた時だった。

「……?あ、?」

刈り込まれた芝生の中に、何かがある。闇夜に沈んでも月明かりでうっすらと見える輪郭に、來はふらふらと歩み寄ってじっと見つめる……と、その輪郭こそが今まで散々探し回っていた物だと確信した瞬間。それまで淀んでいた彼女の瞳に力が戻った。

「あった!!あった!!!あった……けど……………」

最初は嬉々として拾いあげた來だったが、物の状態を目にして言葉を失う。一生懸命編み上げたそれは、ボロボロにほつれていた。全財産を叩いて買った高級刺繍糸は毛羽だってしまって、元の滑らかさや艶も失っている。誰かに踏まれたのか鳥とか野良猫とかがオモチャにしてしまったのか分からないが、ゴミとして捨てられなかっただけマシといった状態のそれを見た瞬間、來は唐突に我に返った。



………

……何してんだろう、私。



彼に…バンジークスにお礼がしたい一心たった。でも冷静になって考えれば、使用人の所持金程度で買えるような物に、彼がどれほどの価値を見出だすというのだろうか。喜んでくれるとは到底思えない。むしろ折角のお給金を結果的に無駄にしてしまった。無給でいいと言った自分に対する彼の心遣いを、こんな形で無下にしてしまったことに來の心は急速に冷えていく。

「ホント…何してんだろ、私」

ぽつりと小さく呟いてから見つけた物を手の中に握りしめると、來は力なくとぼとぼと公園を後にした。



***
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ