I want youの使い方

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大英帝国生活6日目の朝。

今日のロンドンも曇り空で、晴れ間は相変わらず見えない。



***



あれから一体どうなったんだろう。

ゲストルームの窓から外をぼんやり眺めながら、來はぼんやりと考えた。あれから…スキジャッド邸の地下ワイン倉庫で起こった騒動から2日が経過したが、來の状況に何の変化も見られなかった。

「………」

來はそのまま外を眺めつつ、一昨日の出来事を思い返す。スキジャッドが突然絶叫しながら突進してきて地下ワイン倉庫の壁に激突して…それからラディに1階へ連れ出されて。暫くしたら黒い制服の…雰囲気から警察官ような人達がどやどやとやって来て。まさかやっぱり本当に死体が出てきたのかと内心ドキドキしたが、地下から帰ってきたバンジークスの姿にほっとした

……のも一瞬で。彼はラディに何事か指示するとまた地下へ戻ってしまった。そして指示を受けたラディは険しい表情で來を睨みながら外のキャリッジまで強引に引っ張っていくと、そのまま一緒に乗り込んでバンジークス邸へ帰ったのだった。馬車という閉じられた空間の中、ラディと2人きりで過ごす気まずさといったらない。置いていったバンジークスが気になっておずおず尋ねるも、彼はちらりと一瞥するだけで何も答えてはくれなかった。

そうして帰ってきてからも、バンジークスを見ないまま今日で2日目。その間來はひたすらゲストルームに籠ったままで、やってくるのは世話をしてくれるノーラだけだ。彼女はラディと違ってニコニコと(そして一方的にぺらぺらと)関わってくれるが、1人で過ごす時間の方が断然長い。何がどうなっているのか分からないまま、ただ漫然と時間だけが過ぎていく。

「――…」

來は、指先で窓ガラスをそっと撫でた。今の自分の状況、今後、そしてここに存在している理由…何もかもが今見ている曇り空のように不透明で分からない。皆と同じように生きているのに、場所も時間も自分だけが皆と外れている。そんな矛盾に、まるで世界の全てから隔絶されたような錯覚を覚えて心が竦む。このまま…分からないまま緩やかに死んでしまうのではないか。肉体的な死ではなく、もっと奥深い…精神的な――…

無意識にそんな事を考えてしまった自分自身に驚き、我に返った來はぶんぶんと首を横に振って沈みがちな思考を散らす。このまま何もせず、漠然と時間が流れゆくのを見ているだけでは、本当に精神的に死んでしまいそうだ。何か、何でもいいから動かないと…

そう決心した來は「うん」と1人力強く頷くと、着ていたネグリジェをいそいそと脱いで黒のワンピースに着替え始めた。



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