I want youの使い方

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自分を証明する手段は、もうこれしかない。

己の中心に、はっきりと焼き付くように芽吹いた確信。

その強さを信じて、來は本の朗読を続けた。



***



《1899年10月28日。スキジャッド・オナゴン氏が妻を殺害》


『イチ、ハチ、キュウ、キュウ、年。じゅうがつ にじゅうはち……すきじゃっど・おなごんサン、ツマ 殺シマス』

來が今手にしている本…それは"大英帝国の歴史"と題されたぶ厚い本。その中の"犯罪について"というページだった。そこには、当時の大英帝国における犯罪傾向だけでなく、実際に起きた事件の概要も記録されている。その中の1つ…"今"から約3か月前の事件についてを、來は必死に朗読した。


《死因はロープを用いた絞殺による窒息死》


『――…彼、ろーぷ 使ウ、ツマの首…クビ――…閉ジル。ツマの息、すとっぷ。ソシテ、死ヌマシタ』

和英辞典を使う手間すら惜しむかのように、書かれている文章をバンジークスに必死に伝える來。日本語のそれを、知ってる限りの英単語で紡いでいく。


《殺害の動機は、スキジャッド氏の度重なる浮気が妻に発覚し、その言い争いの末に殺害。彼は妻の死体を地下のワイン倉庫の壁の中に塗り込めて隠した》


『…ナゼナラバ。彼ハ、タクサンノ がーるふれんどガ イマス。怒ッタ カレのツマ。カレは、殺ス。ソシテ、わいんノ部屋ノ カベニ 死ノ カラダ』

『………』

バンジークスは厳しい顔つきで來を睨み付けるように見ている。彼が纏う雰囲気に鬼気迫るものを感じながらも、來は朗読を止めなかった。



《スキジャッド氏は犯行を隠す為に警察に妻の捜索を依頼し、さも行方不明になったかように装った》


『ツマをサガシテ クダサイ。彼ハ、警察ニ うそ、ツキマス』


《彼の外面の良さやジェントリとしての地位ゆえに積極的に怪しむ動きはなかった。それから50年後にスキジャッド氏が亡くなり、遺産整理の際に初めて妻の遺体が発見されたのだ》


『ソシテ、ごじゅうネンゴ、彼ハ死、妻ノ死ノ カラダ、誰デモ見エマス』


《こうして。彼は罪から逃れた》


『彼ハ、有罪カラ 逃ゲマシタ』

『……何を、読んでいる?』

視線を鋭く研ぎ澄ませ、バンジークスは低くゆっくりと問う。來は、手にしていた本を彼に向けた。

『コレは だいえいていこくノ レキシのホンです』

『――…我が国の歴史書、だと?』

『ホンのナカ、イチ、ハチ、ゼロ、ゼロ 年から イチ、キュウ、ヨン、ナナ 年へのレキシ』

『………』

『だいえいていこくノ レキシ』

厳しい表情で睨み付けるバンジークスに、來は怯まず彼を見つめ訴える。

2015年を生きる來にとってこの本は、ただの歴史書にすぎない。



しかし。彼らにとってのこの本は

未来の書物……予言書なのだ。



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