I want youの使い方

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何がどうなったのか分からないまま

そのまま1日が終わって、また來の1日が始まった。

大英帝国、バロック・バンジークスの屋敷で…



***



「………」

來はバンジークス邸のゲストルームのベッドに腰掛け、窓から見える外の景色をぼんやりと眺めていた。この世界に来て今日で4日目だが、晴れ渡る空をまだ1度も見ていない。今だって朝のはずなのに、外はどこか重暗い。さすが霧の都と言われるだけの事はあるなと、來はひっそり思った。

そんなすっきりとしない外を見つめながら、同じようにすっきりとしない"昨日の事"を來は思い返す。朝、はっと目覚めて飛び起きた場所は病院ではなく、大英帝国の中でも見覚えのある部屋……バンジークス邸のゲストルームだった。服は昨日と同じ黒いワンピースのままだったが、今いる場所を理解した來は詰めていた息をようやく吐き出す。

昨日、夜になっても迎えに来なかった事に絶望しながら泣き暮れて眠ったのが最後の記憶だっただけに、彼…バンジークスは約束通り戻って来てくれた事に深い安堵感に包まれた。しかし…

「…………」

來は思わずふっと顔を曇らせる。バンジークスは未だ姿を見せない。ノーラがあれこれ身の回りの世話はしてくれるから不自由は感じないが、今後が見えない分、不安は膨れる一方だ。

ここに居ていいのか。

それとも、追い出されてしまうのか。

「………お家、帰りたい」

ぽそりと洩れた本音。自分自身の言葉に、どうしようもない悲しさが込み上げてくる。喉元まで競り上がる悲しみがそのまま涙になってしまいそうな予感に、來は息を飲んで俯くと目を固く瞑った。泣いてしまったら、止める自信がない。

「…………っう」

心の中で吹き荒れる感情の波に、思わず嗚咽が漏れた時だった。

コンコンコン、とゲストルームのドアがノックされるなりガチャリと開く。

『おはようございます!さあさあ、今日もやっぱり曇りですが、支度をなさってくださいまし!』

「!」

元気のよい声と共に、ノーラが大柄な体躯をゆさゆさ揺らしながら來へ近づいてくる。突然の登場に來は目を丸くして彼女を見た。驚きすぎて溢れてしまいそうになっていた涙や嗚咽が止まる。

『御主人様もお待ちですよ。さぁさ、これに着替えてちょうだい。あ。コレね。昨日と同じ服だけどね。アタクシ、ちょっと仕立て直してみましたのよ。ほら、アナタ、これ着て転んでたでしょ?危ないなって思ってね、アタクシ』

「…………」

べらべらと喋りかけるノーラに圧倒されてぽかんとなる來に構わず、彼女はばさりと持ってきた服を手渡した。そうして急かされるように慌ただしく着替えた來は、ある事に気付いてきょとんとスカートの裾を見下ろす。くるぶしまであったスカート丈が、ふくらはぎの中ほどまで短く裾上げされていた。

『あぁ、良かった!やっぱり思った通りの仕上がりね!さすがアタクシですわ』

着替え終えた來の立ち姿に、ノーラは歓喜の声を上げる。スカートの裾をひらひらさせながら、來は軽く足踏みしてみた。昨日より動きやすくて、これなら転ばなくて済みそうだ。

『お支度は整いましたね?じゃ、早速出掛けますよ!』

「わっ!」

ノーラは勢いそのままに來をゲストルームから連れ出した。



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