I want youの使い方
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話さなければ良かったと後悔しても、もうどうしようもない訳で。
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覚悟を決めて、そして拙すぎる英語を駆使して懸命に話した"自分の本当の事情"だったが…その瞬間。ラディが、ノーラが、そしてバンジークスもが顔色を変えたのを見て、來は話した事を後悔した。いくらなんでも、開口一番に"I'm from the future world"とか言ったら、相手は顔色の1つくらい変える。自分だって、外国人からカタコトの日本語で"未来カラ来マシタ"なんて言われたら、絶対信じないだろう…いや。むしろ、引く。
しかし、自分が口火を切った以上はもうどうしようもない。居たたまれない空気が深まっていくのを肌で感じながら、來は和英辞典も使って必死に事情を説明した。自分は115年後の2015年からやって来たこと、何故そうなったのか理由は分からないこと、もちろん帰る方法も分からないこと――…
『………』
3人が無言でこちらを見つめる。が、それぞれの瞳に不審が色濃く出ているのを見て、自分の英語は彼らに通じたと感じる來だが…思った通り、真実だと受け取ってもらえなかったようだ。信じられない事情だけど、これが本当の本当に真実なのに…
『…分カル。ワタシ、オカシイ 話 スル、今。デモ、オ願イ。ほんとノ話、コレ』
『――…』
『オ願イ デス。信ジテ、クダサイ。信ジテ……』
『……』
必死に懇願してくる來に、バンジークスはふーっと長く溜め息をつくと額を指先で軽く押さえた。
『…これだから日本人は面倒なのだ』
『御主人様…もしやこの娘は精神異常者では』
思わず愚痴るバンジークスにラディが小さく告げるが、バンジークスは何も言わず再び胸の前で腕を組んで來を見る。
『未来、か…』
『そのような馬鹿げた話が真実など、あり得ません。御主人様』
『そうだな。確かに馬鹿げた話だ。しかし、嘘をつくならまだマシな話をするだろう』
『だからこそ、この娘の頭は正常ではないのですよ。こんな絵空事を本気で真実だと思い込むほどに…ストランドマガジンですらこのような話は書きますまい』
大衆娯楽雑誌を引き合いに出して來を貶すラディをそのままに、バンジークスはベッドに座る彼女を見つめる。來は立ち上る不安を必死に押し殺しながら、まっすぐに注がれる彼の瞳を真正面から受け止めていた。來のそんな不安に揺れる胸の内を覗き込むように見つめていたバンジークスだったが、突如口を開いた。
『…そなたのそのオカシイ話が、本当だという証拠はあるだろうか?』
『御主人様…!』
『ショウ…コ……?』
質問を嗜めるラディだが、來は聞き慣れない単語を呟いて首を傾げる。バンジークスは再び英和辞典をぱらぱらと捲り、1つの単語を指差して來に見せた。
Evidence
意味:証拠
『……』
彼が何を問いかけてきたのか、ようやく合点がいった來だったが、思い詰めた表情で俯くと口を閉ざした。"自分が115年後の未来からやってきた"という証拠…2015年の話をしたって、ただの空想話としか聞いてもらえないだろう。
もし自分が"未来から来たと言い張る人"と出会ったとして
一体どうすればそれを信じるだろうか――…
「……あ!」
今の状況を自分に置き換え、一生懸命考えていた來は、何かひらめいたのかはっと顔を上げた。
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