神様の言う通り

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「…分かった。引き続き、捜査を頼む」



***



ピッ、と細く短い電子音を鳴らして携帯の通話を終わらせる。役目を終えたそれをポケットに入れて、私は車のハンドルを緩く握ったまま正面を見た。朝とはいえ、まだ早い時間帯だけあって人通りはまばらで、街はまだ完全に目覚めていない。そんな静かな空気をフロントガラス越しに感じながら、先ほどの電話を思い返す。



『聞き込みしたッスけど、あそこら一帯で乗り物にイタズラされたとかいう話はないみたいッス』



それに付け加え、『あと、あの自転車にイタズラした犯人は、目下捜査中ッス』とイトノコギリ刑事は報告した。昨日の今日で事態が進展するとは思っていなかったが、鷹宮さんの自転車以外に被害が及んでいないという事実には、ある種の考えが過ぎってしまう。



無差別ではなく…彼女1人を狙ったのではないか、という考えが。



「――…まさか」

思わず口を付いて出た否定の言葉。ブレーキワイヤーに細工など、どう考えても単なるイタズラというレベルを超えている。恨みや憎しみ、死さえ厭わない悪意を、誰かが鷹宮さんへ向けているというのか。彼女が誰かに恨まれているとでも――…しかし、もしそれが事実なら、昨日の電車の件も無関係だと思えなくなってしまう。一昨日の自転車、昨日の電車…それらの関係性が認められたのなら、今日も彼女の身に危険が及ぶ可能性が高い。

「………」

頭の中でゆっくりと組み上がるロジック。全体像はまだ見えない…が、長年の勘から間違いだとも思えない。これら私の推論は、"もしも"から始まる仮定に基づいたもので何の確証もないが、ただの偶然として片付けるのは危険な気がした。

「…ム」

そんな時、とある建物から鷹宮さんが出てくるのを確認し、ひとまず思考を中断する。建物というのは、昨日彼女を送り届けた際に知った、彼女の住居であるアパートだ。私は静かにキーを回してエンジンを掛けると、路肩に停めていた車をするすると発進させた。



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