神様の言う通り

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男ならよォ

行動あるのみだと、俺は思うぜ。



***



コンコン。



「邪魔するぜ、御剣の旦那ァ」

「…夕神か。何だ?」

一応、検事局の中でも別格なお偉いさんを尋ねる手前、俺はノックをしてからドアを開けた。向こうが返事する前に開けちまったが、御剣の旦那は気さくに応じてくれる。やっぱり上に立つ人間は器が違うねェ。

…て、ンな事を感心しに来たんじゃねェ。俺はこの人に助けられた恩がある。今回はその恩に報いる為に来たんだ。もちろんそれは…

「………」

「……どうかしたか?」

局長室の奥にあるデスク席に座る御剣の旦那の所まで歩み寄った俺は、腕を組んで無言で見下ろす。何も言わない俺に、旦那は座ったまま眉根を寄せてこっちを見上げてきた。

「――…ちょいと小耳に挟んだんだが」

「なんだ?」

丁度休憩…所謂ティータイムっていう時間だったんだろう。旦那はお上品な白磁のティーカップを持つと、ゆっくりと口元に近づける。

「旦那、コンビニの女に惚れてるんだってなァ?」

「ぶほっ!!?」

俺の話に、御剣の旦那は飲んでいた紅茶を派手に吹き出す。周りからの情報を総合するに、この御剣怜侍っつー男は、恐ろしく頭が切れるクセに、俗世の…特に色恋沙汰には鈍い。そう睨んだ俺は、回りくどい事はせずに単刀直入に本題に入った。真正面にズバリと切り込んだだけあって、御剣の旦那はストレートな反応を見せる。ここまで華麗に、まるでお笑い劇場のように茶を吹き出すたァ、正直予想外だったがな。

「げほっ!ごほっ!が、はっ……はぁ……な、なな…な――…っ何の話だ夕神!」

「小耳に挟んだ話だって、俺は言ったんだが?」

「きっ……貴様がそのような戯言を真に受けるとはな」

「ほーぉー?んじゃ、この噂は事実無根のガセだっつーんだな?」

「………フン。実にくだらん」

御剣の旦那は顔を真っ赤にしてそう吐き捨てると、カップをデスクに置いた。"嘘を付きたくない"っていう根底があるからか、俺の問いかけに対する返事は曖昧なモンだったが……もしかしたら自分の中にある"好き"っつー感情に嘘を付きたくないが故の発言かも知れねェ。へっ、素直じゃねーけど、とことん純なモンだ。

「その小耳に挟んだ噂じゃ…毎日コンビニに通ってるとか?」

「――…便利だから利用している」

「その女、この前の旦那の裁判を傍聴しに来たんだって?」

「知らん」

「ついでにデートもしたとか?」

「知らん」

「相当若いって話じゃねェか?」

「知らん」

畳み掛けるように質問を重ねるも、御剣の旦那はこっちに視線を向けず、鬱陶しげに"知らん"の連発だ。けどな…男が話を誤魔化す時は、相手から視線を逸らす。旦那がこっちを見ねェって事は、そういうこった…逆に女は、目を見てくるらしいがな。

「そうかァ…いや、若い女ってなァ出会いも豊富だろうから、御剣の旦那みてェな美丈夫が片恋してるとも知らず、他に男を作っちまうんじゃねぇかって…ちょっと気掛かりになっちまってよ」

「っ!?」

遠くを眺めながらそう呟くと、さっきまでこっちを見もしなかった旦那が、はっと視線を向ける気配を感じた。へっ…こんだけ分かりやすけりゃ、心理分析する手間もいらねぇぜ。

「まぁ…その女自身が作らなくても、他の男が手ェ出してくるかもなァ?若いなら尚更だ」

「……」

「いいのか?今のまんまでよォ…?」

問いかけながら御剣の旦那を見下ろす。相手は鬼気迫る表情で、俺を睨みつけていた。恐ろしく不機嫌な様相だが、その裏にある"色"が見え隠れしてるのを、俺は察した。



――…焦り、だ。



"他の男に取られる"という可能性を指摘されて、心底焦っている。多分、片恋に浮かれすぎてて、その事が見えてなかったんだろう。全く…純なのもいいが、鈍いにもほどがあるぜ。

「…眺めるだけで満足するのは、花見ぐれぇなもんだ。女は花か?――…違うね、人間だ。花はみんなのモンだが、女は1人の男のモンにしかならねェ。そしてそれは、指を咥えて眺めているだけじゃ出来ない」

「………」

「…分かるだろ?御剣の旦那」

「――…」

瞬きせずに、見下ろす俺を射抜くように睨みつける旦那が面白くて、思わず口の端に笑みが浮かぶ。それだけ本気で欲しい女なら、眺めるなんてヌルい事は止めて、とっとと行動しろ……俺は、それを言いに来たんだ。



***
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