神様の言う通り

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ホントに…

この国はどこまでもめでてぇなぁと強く思う。

何せ検事局のトップが、いい年こいて片恋しているだとか…

本当に平和な国だぜ。



***



「ん?」

その日もいつもと同じように、例のコンビニへ向かった私だったが、いつもとは違う様子に思わず眉根を寄せた。何というか…普段より人が多いような気がする。少し警戒しながら歩み寄ると…

「………」

入口の両脇に1人ずつ、男が手を後ろに組んで直立していた。黒いスーツに黒いサングラスを掛けた無表情の男2人は、ぴくりとも微動だにせず正面を睨みつけている。静かに殺気立つ雰囲気に、コンビニの前を歩く一般人は何事かと視線をちらちら向けながら、足早に通り過ぎていった。

「…?」

ただならぬ様子を鋭く見据えながら、私がコンビニへ入ろうとした時だった。

「おい。お前」

「…何だ?」

黒服の男に止められ、私は彼らを睨みつける。

「コンビニに何の用だ?」

「買い物だが」

「では、身分証明を出せ」

「………」

突っけんどんで不躾な物言いに、私はますます彼らを厳しく見据える。

「何故だ?大体、貴様らは何の目的で、そして誰の権限でここに居座っている?」

「師父のご命令だ」

「師父、だと?」

どこかで聞いた覚えのある単語に、ひくりとこめかみが震えた時だった。目の前の自動ドアがガーッと音を立てて開いた。

「よぉ。久しぶりだなぁ、検事さん…いや、今は検事局長様、か?」

「――…貴様っ!?」

そこに立っていた人物を見て、私の瞳が驚愕に見開かれる。



国際警察の、狼士龍――…!



彼はトレードマークのX字型フレームサングラスを外して胸ポケットに突っ込むと、犬歯を覗かせて不敵に笑う。会うのは数年ぶりになるが、確かにこの男は狼士龍その人に間違いなかった。

「貴様…ここで何を?しかも自慢の部下まで連れてきて……何か事件でもあったのか?」

「ふ。それはなぁ…」

狼は体を半身、後ろへ引くと右手を大きく振りかざして拳銃を突きつけるようにこちらへ人差し指を突き付けた。目の前で繰り広げられるモーションに、私は思わず1歩後ずさる。

「俺達はここの――…!」

「ここの消防点検と防犯点検に来たのよ」

狼の背後から突然現れた人物が、彼の言葉尻を強引に引き継いだ。私は、またしても驚きに目を剥く。

「なっ……め、メイ!君まで一緒なのか!?」

「…おいおい、アネさん。人のセリフを勝手に盗らないでくれないか?」

出鼻を挫かれ、狼はチッと舌打ちして顔を顰める。そんな彼の不機嫌さにメイは構わず、狼を押しのけて私の方に話しかけてきた。

「貴方は今から出勤のようね。局長のクセに、運転手もつけず自力で通勤しているの?」

「…人がどのような方法で局へ出向こうが関係ないだろう。というより…この騒ぎはなんなのだ?」

メイは勝気に微笑んでみせると、小首を傾げて人差し指を左右に軽く振った。

「さっきも言ったでしょう?ここの消防点検と防犯点検に来てるの」

「――…アメリカの検事と、国際警察がか?」

「悪事のあるところに狩魔あり、よ。レイジ」

「…悪事だと?ここでか?」

鷹宮さんがいるコンビニで、国際警察が乗り出すような重大な事件が起こっているというのか?毎日来ているが、そのような気配は――…

思わず考え込んだ時、狼がニヤリと笑うと懐から徐に巻物を取り出し、ずらっと紙を引き出した。

「狼子、曰く!悪事の道も1歩から!」

「………なんだそれは」

「大きな悪事も、些細な悪事から始まる。大きくなる前にその芽は摘んどっちまえって事さ」

「実際、コンビニは犯罪の温床とされているわ。だからこうやって防犯と消防の点検を、私達が完璧に行う必要があるの」

「………」

巻物を仕舞って説明する狼のしたり顔と、その横で腕を組んで目を閉じるメイの真面目な顔を交互に見て、私は溜息を付いた。

「だからといって、このように仰々しく行わずとも…これでは却って営業妨害になるのではないか?」

「点検が終われば、私達はすぐに帰るわ」

「数十分の点検で悪事が防げるなら、結果オーライじゃないのか?局長さんよぉ」

「………店内で買い物がしたいんだが」

本当かどうかは別として、これ以上付き合ってられん。そんな思いで呻くように呟いた私の言葉に、狼はニッと楽しげに口角を上げた。

「おう、入んな」

「………」

顎をしゃくって入店を促す仕草に、私は眉根を寄せたまま無言で店内へ入ったのだった。



***
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