神様の言う通り

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***王泥喜法介の証言



あの日、オレ達は御剣局長が通っているっていうコンビニに行ってみたんです。イトノコさんから協力してくれって言われていたし、何より成歩堂さんの幼馴染ですから。

前もって成歩堂さんから話を聞いてはいたんですけど…イトノコさんの言っていた通り、御剣局長は本当にコンビニにいました。ああいう感じの御剣局長を見た事がなかったんですけど、本当に嬉しそうな表情でパンコーナーに立っていて…あ、その片想いの人がいると、すっごく嬉しそうな顔をするって成歩堂さんから教えてもらってました。

でも、行ってみたはいいけど、具体的にどうすればいいのか分かんなくて、希月さんと2人でひとまず様子を見ていたんです。これも成歩堂さんから教えてもらっていた事なんですが、御剣局長は片想いの人しか見えてないから、ちっとやそっとじゃ自分達の事はバレないって…だから様子を見る事自体は難しくなかったですね。

そしたら…



【いらっしゃいませ。あ、取り置きしてますよ】

【ムッ…その……いつもすまない】

【いえ。こちらこそいつもありがとうございます…あ、よろしかったらこちらもいかがですか?】

【これは?】

【恵方巻きです。節分の時に恵方っていう縁起のいい方向を向いて食べると、幸せになれるそうですよ】

【ふム】

【ボリュームもあってご飯代わりになりますから、予約される方も多いですし。御剣さんもいかがですか?】

【っ…】

――…連日通っている成果か、名前で呼ばれて御剣局長は硬直してました。顔は強ばってるけど、照れてるのか顔を赤くして。

【そ、それは――…その、もしかしてノルマというヤツだろうか?】

【え?あ――…そんな大袈裟な感じのはないんですけど、目標というのは一応】

【そうか…】

そしたら、御剣検事局長は少し考えて…

【今予約すれば、君の責任で予約され、君の成果に繋がるのだな?】

【え?そ、そうですね。目標はそれぞれありますから】

【ならば、頂こう】

【ありがとうございます。何本ですか?】

【そうだな。300本ほど頼んでおこう】

【はいっ?!!?】




***



「さ――…」

「300本、ですかっ!?」

「…信じられないですけど。オレ達、実際に聞いて思わずズッコケました」

「見た目も派手ですけど、やることも派手なんですね、御剣検事局長さん。ちなみに一番高い豪華海鮮恵方巻きを頼んでましたよ。1本1200円です」

「それにしても…300本……1200円なら総額――…ええっと?」

「………360000円ですわ」

「36万円…随分と思い切った事をなさりましたな」

「それは…その片思いの彼女様も、相当に驚いた事でしょうに」

「えぇ。その片思いの彼女さんのビックリした声で、店内中が注目するくらいでしたから」

「それでその後は…どうなったんですかな?」



***希月心音の証言



私も結構色んな場数踏んできましたけど、あの恵方巻き300本予約は相当に予想外でしたね。片想いの彼女さん…あ、その人は鷹宮さんっていう人らしいんですけど…も、目をまん丸にして固まってました。

【あの…さ、3本じゃなくてですか?】

【ム。300本では目標とやらに足りないのだろうか?】

【い、いいえ!とんでもないです!!充分すぎです!!その…あの…ほ、本当に300本?】

【あぁ。職場の人間に配ろうと思う】

【はぁ………】

【…300本作るのは、大変だろうか?】

【いえ。その…これは別の業者に頼むんで、ここで作りはしないんですけど……あ!ち、ちょっと待っててください。一応店長にも確認取ってきますね】

そんな感じで、鷹宮さんはバタバタとお店の裏の方へ走って行っちゃいました。300本なんて数、多分お店始まって以来の大注文ですもんね。

【お待たせしました。あの、300本、大丈夫です】

【うム。良かった】

【その…お支払いは、商品が届いてからなさりますか?】

【いや。確かここはカード払いも可能のようだから、それで頼む】

【は、はい……】

【君の助けになっただろうか?】

【え?は、はい。それはもう…すっごく】

大口注文に緊張気味の鷹宮さんと、どこか嬉しそうな表情の御剣検事局長さんが印象的でした…



***



「そんな訳なんです」

「そうでしたか…いやはや、何とも凄まじい情熱ですな」

「ナルホドさんもさすがにびっくりしてて、アイツの好きな人がキャバ嬢じゃなくて良かったとか言ってました」

「た、確かに!ホステスさんは意外とお金がかかりますからな。ブランドバッグや海外旅行資金、果てはマンションや車などを彼はポンッと出してしまいそうですぞ!!」

「意外と一途と申しますか、御剣局長様は熱い部分をお持ちなのですね」

「これはますます彼の恋の成就を願って、完食せねばなりませんな」

「そうですわね。今年の恵方はどちらでしょう?」

「えっと…東北東です」

「分かりました。えっと…こっちが東ですかな?水鏡裁判官」

「そちらは西にございますよ、裁判長」

「ほ!危うく失敗するところでした。ありがとうございます。では――…御剣検事局長の恋が無事に実りますよう、心を込めて食べますぞ」



――…そうして4人は、裁判所のカフェテリアにて、同じ方向を向いて無言で太巻きにかぶりついたのだった。



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