神様の言う通り

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たった4日間で、意外なアイツの姿を見る事が出来て…こっちは正直驚くしかない。



***



「あ、パパ。ほら、今日も来たよ」

みぬきにスーツの袖を引っ張られ、促された先…コンビニの入口に視線を向けると、異様な存在感を放つ男性が静かに入店してくるのが見えた。誰だろうと思い出すまでもない。間違いなく僕の幼馴染で天下の検事局長でもある御剣だ。

イトノコ刑事に"御剣が片思いをしている"と熱く語られて、まぁまずは真偽の程を確かめようと実際に問題のコンビニに足を運ぶ事、今日で4日目。イトノコ刑事の言う通り、御剣の姿はその度確認する事が出来た。

御剣は入店するなり、商品じゃなくてまずレジを見る。4日間の張り込み(我ながら、ホント暇人だと思う)から分かった、アイツの行動パターンの1つだ。

「……あ、笑ったよ。パパ」

「うん。今日は例のあの子がいるからね」

御剣は鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌さで、焼きたてパンのコーナーを目指して歩いて行く。これもアイツの行動パターンの1つだけど、焼きたてパンコーナーへ行くには、レジ前を通るより雑誌コーナー前を通った方が近いのに、わざわざレジ前を通って行く辺り、なんていうか…彼なりの地道な努力が伺える。小学生か。

ちなみにその"例のあの子"がいない日は…アイツの表情がみるみる翳って、文字通り「しゅーん」を体現した表情になる。僕も思った事が顔に出るとか言われるけど、アイツほど露骨じゃないと思うな。

にしても…一般的で規模も小さいコンビニに御剣がいるという光景は、ものすごい違和感とミスマッチと、滑稽さに満ちている。派手な顔立ちにあの格好だから仕方ないけど…実際、御剣の入店に気付いた客が、ぎょっとした表情でアイツを見ている。ここがバンドー・インペリアルホテルの最上階レストランとかだったら、浮くのは逆に僕達の方なんだけど。

そんな周囲の驚きと好奇の視線に、アイツは気付いてないのか気付いてて無視してるのか、どこ吹く風でパンコーナーを物色している。張り込み開始から今日で4日目。今まではこっそり隠れて――…まぁ隠れるまでもなく、アイツは例のあの子しか見てないようで、こっちに気付いてないんだけど――…今回は接触を試みようと思って、みぬきと一緒にパンコーナーへ向かった。

「よぉ、久しぶり」

「…ム。成歩堂とみぬき嬢か。こんなところで会うとは奇遇だな」

肩を1つポンと叩いて声をかけると、アイツは心底驚いた様子で振り返った…マジで今まで僕達が張り込んでいた事に、気付いてなかったんだな。っていうか、奇遇って――…お前毎日ここに来てるんだから、奇遇も何もないだろ。

…そんな僕の感想は口に出さず、御剣に倣ってトレイとトングを手にすると、パンを選びながら話を始めた。

「イトノコ刑事が、お前がここによく来てるって話を聞いたんだよ。高級志向のお前がまさかって思ったんだけど、ホントだったんだな」

「――…ここは、なかなかイイ店だからな」

御剣は眉間にヒビを入れるいつもの表情をしてみせながら呟いた。でも頬がうっすら赤くなってる。うわー…34の男が頬を染めて動揺するって、なかなか破壊力抜群だな。特に御剣が、っていうのが効いてる。そしてコイツ…嘘つくのが果てしなくヘタだ。

「確かに、この焼きたてパンは美味そうだな。じゃあ、僕はコレ…」

「あ」

「ム」

僕が徐に棚に並んでいた残り1つのアップルパンをトングで掴んだ途端、傍にいた御剣とみぬきが声を上げた。予想通りの反応だったが、僕はきょとんとした表情で2人を見る。

「え?どうしたの?」

「パパ、それ――…」

「え?美味そうだから取ったんだけど…みぬき、欲しかったらあげるよ」

「じゃなくて、それは御剣さんが」

素直に面倒になりそうな言葉を口にしかけたみぬきを視線で制し、僕は御剣を見た。

「え?何?御剣。コレ、欲しかったの?」

「――…構わん。欲しければ取るがいい」

険しい表情で呻くように呟いた御剣は、眉間のヒビをさらに深めてぷいっと別のパンの前へと行ってしまった。離れた御剣を見て、みぬきが僕に耳打ちをする。

「パパ。そのアップルパンは、イトノコさんが言ってた御剣さんのお気に入りで、例のあの人ときっかけになる……」

「だから僕がその最後の1個を取れば、御剣があの例の人と会話出来るだろ?前みたいに"アップルパン、良かったんですか"って」

説明すると、みぬきは「おおっ」と驚いた表情で両手をぽんと打ち鳴らした。

「すごい、パパ。そこまで考えてたんだね」

「ははは。パパもそれなりに色々とあったからねー」

お褒めの言葉をありがたく受け止めつつ、僕はトングで次のパンを掴んだ。



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