神様の言う通り

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その日、「うぉおおおおッス!」という雄叫びとともに、成歩堂なんでも事務所のドアをバターンと開けて猛然と入室する1人の男が現れた。



***

「………」

「きゃっ!」

「え!?」

「な、何ですかイトノコさん」

突然の来訪者の登場に、事務所にいた8つの目が一回り大きく見開かれてその存在に注目する。新しいマジックを披露するみぬきと、それを見学していた心音、王泥喜は驚きに前髪がびんと跳ね上がり…一番奥の席に座る成歩堂は無言だったが、ぽかんとした表情で彼を出迎えた。

王泥喜に"イトノコ"と呼ばれた大柄な男性は、ふんがーと鼻息も荒い様子で肩を怒らせ、ずかずかと大股一直線に成歩堂の元へと歩いて行く。

「な…何なんですか、イトノコ刑――…」

じ、と成歩堂が言い終わる前にデスクの前で立ち止まった糸鋸は、大きな手を振り上げてばぁんとデスクに叩きつけた。大きな音と振動に、4人はびくりと肩を竦ませる。

「一大事ッス!これは今世紀最大の一大事ッスよ!!!」

「だっ、だから…一体何がどうし――…」

「アンタも無関係じゃないッスから!協力してもらうッス!強制ッス!絶対ッス!!」

唾を散らさん勢いで前のめりに捲し立てる糸鋸に、成歩堂は座ったまま…というより、立ち上がる事すら出来ず、椅子ごと後ずさった。

「き、協力って…何にですか?」

「決まってるッス!!」

大きく肩を上下させて興奮を抑えようとする糸鋸は、デスクに叩きつけた手のひらをぎゅうっと握りしめて叫んだ。

「御剣検事局長の恋に協力するッスよ!!!」

「…………エ?」

「みつるぎ」

「けんじ」

「きょくちょうの……」



恋ぃいい〜〜!?



――…4人一斉に、最後の単語を合唱した。


***



「………あの」

糸鋸の衝撃的告白(提案?)に、事務所が静まり返る。所長である成歩堂がおずおずと目の前の男に語りかけた。

「今の話……ホントなんですか?」

「ホントの本当ッスよ!御剣検事局長を検事の頃から見てきた自分が言ってるッス!!」

「でも、あのイトノコさんだからなぁ〜」

「うんうん、思い込みと勢いだけかも」

「アンタら赤と黄色は、自分と御剣検事局長の長年の付き合いを知らないからそんな事を言うッス!自分の目に狂いはないッスよ!!」

名前ではなくカラーで呼ばれた王泥喜と心音は、ムッとした表情で糸鋸を見た。すかさずみぬきがぴょんぴょん跳ねるような足取りで、糸鋸に近づく。

「でも。それだけ自信満々なら、何かピンと来た事があったんですか?御剣さん、そういう話題を口にしそうなタイプじゃないでしょ?」

「モチのロン!ッスよ!!」

ぐるりとみぬきに向き直った糸鋸は、力いっぱい首を縦に振ると、これまた力いっぱい語り始めた。

自分が慕う御剣検事局長が恋をしているのだと気付いた、そのきっかけを。



***
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