神様の言う通り

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彼女の話に、私は息を飲む。それはまさしく――…私が行った例のアレではないか!牙琉検事の話からヒントを得て、実行したあの…!

「送り主は?」

「それが無記名だったものですから…未だに誰か分からなくて」

メイにそう告げる鷹宮さんの言葉に、トレイを持つ私の手に力が篭る。あの時、どうにも自分の名前を明かすのが躊躇われて、そして検事局と書くのも無駄に警戒されるだろうと危惧して…結局無記名で送るように頼んだのだ。

「では、誰宛というのも分からずじまいかしら?」

「届け先はお店の名前になっていたので、お店宛かもしれません。でも、店長も心当たりがないみたいで」

それもそうだ。私は店ではなく、君に送ったのだから。

「なんつーか…それは不思議じゃなくて思いっきり不審なんじゃねーか?」

「無記名で品物を送るなんて、確かに怪しいわ」

2人はこちらをちらりと見ながら、口を揃えて呟く。何故、彼らはいちいちこちらを見るのだろう。私が贈ったという確信を持っているとでも言うのか?私が手配したのは事実だが、だからこそ証拠はないハズだ。

「でも、お花だけでしたから。送られてきたのは」

「脅迫状や危険物などは混入されていなかった?」

「いえ。普通に花だけでした」

何を物騒な事を言うのだ、メイ。私は純粋な気持ちで彼女にプレゼントを贈っただけだ。

「でも、無記名な上に誰宛かもはっきり分からないなんて…」

「せっかくの花も、誰に貰われるのか分からないってのも可哀想だなぁ?」

「送られた方が誰宛かも分かっていないって…贈る意味、あったのかしら?」

2人はこちらをチラチラ伺いながら、そんな話をしだす。クッ…知らないとはいえ、好き放題言いおって。確かに鷹宮さんに私の真意は伝わってないのは事実だが、これは私の自己満足なのだ。そう、彼女に何かしてやりたいという、私の我が儘なのだ。そこに意味を求めるのがそもそも――…

「でも、一輪だけ貰いました。今も靴箱の花瓶に生けてます」

「え?」

「!」

鷹宮さんが口にした事実に、私の鼓動がドクンと強く跳ねる。

「本当は全部飾れたら良かったんですけど…ホントに凄い量だったんで、一輪だけ」

「それは…どんな花かしら?」

「ひまわりです。この時期にひまわりなんて、珍しいなぁって」

そう無邪気に笑った彼女に、私の心臓がドクドクと早鐘を打ち鳴らし、それが祝福の鐘のように脳内を駆け巡る。てっきり全部破棄されただろうと思っていたし、破棄されても構わないと思っていたが…!一輪、彼女の元にあるというその事実が、全身に歓喜の震えをもたらす。



(ひまわりの花言葉は、"私の目は貴方だけを見つめる"だったわ)

(アネさん。それはストーカーの常套句か?)

(やってる事はストーカーと紙一重だけど…検事局の権限を使わないだけ、褒めるべきかしら?)



2人は再び顔を寄せてヒソヒソと小声で話し合っている。何なんだ。まさか…2人はそのようなアレの関係なのか?うム…狼はともかく、メイが……何だか複雑な心境だが、妹が嫁に行く気持ちがこういう感じなのだろうか。

「師父!一部破損していた雨樋の補修が終わりました!」

「応!ご苦労だったな!異常は他になかったか?」

「ハッ!窓も完璧に磨き上げ、チリ1つ落ちておりません!」



(…アネさん。もうここらで引き上げるか。これ以上は下手したら怪しまれる)

(そうね。フルネームに年齢、フリーだという事が分かっただけでも、彼にとっては大収穫ではないかしら?)



何を話しているのかやはり分からないほどの小声で、2人はぼそぼそとやりとりをしている。ふム…お互い性格はアレだが、意外と仲がいいのだな。

「よし、点検は以上!…お嬢さん、安心しな。俺の部下が隅から隅まで点検したんだ。防犯はピカイチだって保証するぜ」

「狩魔の名に賭けて、私も保証するわ」

「あ…ありがとうございます」

2人に太鼓判を押され、鷹宮さんはぺこりとお辞儀をする。それを見届けてから彼らは私を一度だけ振り返るとちらりと何とも言えない視線を向け、そのままコンビニを後にしたのだった。

「………」

信じられない事だが…

本当に国際警察とアメリカ検事がコンビニに消防・防犯点検をしに来たのか。

物々しい雰囲気が去ったのを見計らったかのように、コンビニに客が入ってくる。そしてよく見慣れた光景が回りだし、「いらっしゃいませー」と耳慣れた彼女の声が聞こえてきた。

防犯、か。

私がここにいる限り、そのような心配は無用なのだがな。まぁ、万全にしておくのは悪い事ではない。

彼女が…鷹宮舞がいる限り、私はここに欠かさずやってくるのだから。



***08
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