恋愛無関心症患者のカルテ
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長い。長い長い時間が過ぎた。
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何の前触れもなく、突如としてふっと"手術中"のランプから赤い光が消え失せる。その様子を目にした御剣が、その瞬間はっと体を強ばらせた。
ばたん。
「……っ!唯!」
両開きのドアが大きく開かれる。中からストレッチャーではなく白いパイプベッドに寝かされた唯が、看護師や執刀した医師らと共に出てきた。御剣は弾かれたようにその傍へと走り寄る。彼と一緒に待っていた成歩堂と矢張も、御剣に倣ってベッドへと歩み寄った。
「唯…っ」
「まだ麻酔が効いています。静かにしてください」
唯の眠るベッドを押す看護師が、御剣に注意する。神経質そうなその声に、成歩堂と矢張は驚いたように互いに顔を見合わせ、御剣は思わず「ぐっ」と呻いてたじろいだ。
「安心してください。摘出手術は無事に終了しました。出血も落ち着き、脈も安定していますので明日には目を覚ますと思いますよ」
優しく諭すように告げる医師に、御剣は「ありがとうございます」深く頭を下げた。そして、何かに気付いたようにはっと顔を上げる。
「唯が…彼女が目を覚ますまで、傍にいてもいいだろうか?」
「ダメです。無事に終わったとは言え、術後は絶対安静です。騒がしくされると困りますから」
「――…」
再び看護師にきつく咎められ、御剣は表情を曇らせる。矢張が何か言いかけたが、それを直前に察した成歩堂が彼の口を両手で塞ぎ止めた。
御剣の様子を黙って見ていた医師は、再度御剣に話しかけた。
「失礼ですが、彼女とはどういうご関係で?」
「――…っ」
自分と唯の関係……"恋人"と言えば、付き添いの許可が特別に認められるかもしれない…そんな予感はあったが、御剣はどうしてもその言葉を口にする事が出来なかった。
あの頃は、恋人だった。
しかし。彼女から別れを告げられた今は…
「………上司、だ」
「そうですか」
医者がしみじみと頷く。そこらへんの事情を知らない矢張が、異議ありと言わんばかりの表情でもごもごと訴えるが、未だ成歩堂に口を塞がれている状態ではそれも叶わない。
***