dream

□七夕のこと
1ページ/1ページ








「七夕…?なんだそれは」






興味ありげに首をかしげるキッド。



笹がたくさんの短冊をぶらさげ、ゆっくり夜風に揺れる。


それを見つめる彼は幼い子供の様に無邪気だ。




そっか、七夕って東洋の風習だもんね。



七夕ってなんて言えばいいんだろ?


んー…


「願い事を叶える日…かな。」



私が言うとキッドは不思議そうな顔をして私を見つめるが、すぐに笹の短冊に目を移す。




「だからこの細い紙にいろいろと書いてあるのか。」


「それは短冊っていうんだよ。」


納得したように色とりどりの短冊を見つめる彼の横顔を覗いた。


金色の瞳が月明かりに照らされ、昼間よりずっと大人っぽく見えるのは多分夜のせいだろう。


「キッドとずっと一緒にいられますようにってお願いするの」


私が一番叶えたい願い事。


でも、


絶対叶わない願い事。



私は只の人間で、彼は死神。


彼が息を引き取るまで一緒にいたいなんて不可能だもの。


なん百年先になるんだろう。



「なんだ、そんなことをお願いするのか。つまらない願い事だな。」


クスッと微かに笑うキッドは意地悪そうな顔をしている。


「つまらないって何よ!」



せっかく恋人同士っぽく想いを伝えたのに、なんだか負けたような気分になる。


口を尖らす私に気付いてか、キッドは私の頭に手を置いた。


「だって当たり前のことだろう。お前が生きているうちは、ずっとお前の傍にいる。」


優しく頭を撫でてくれるキッド。

その言葉に涙腺が緩くなる。



「じゃあさ、私が先に死んじゃっても私のこと忘れない?」


人間なんて欲の塊。


甘い言葉が欲しいがために、すがるような質問が口から出てしまった。


顔を上げると少し驚いた顔をしているキッドと目があった。



やってしまった、と思った矢先に不意にキッドとの距離が縮まる。

ぎゅっと彼に抱きしめられ、鼓動が速くなる。



「たわけ…忘れるものか。」


少し掠れた声と共に抱きしめる力が強くなる。



ああ、聞いて良かった。



私も彼の背中に手を回す。




願う必要なんてなかったみたいだな。



だけどもし、

今何か願うとしたら、



もうしばらく二人で夜風にあたっていたいな。


fin.



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ