dream

□遅めの下校
2ページ/3ページ






この距離でも分かる…

あいつの涼しい顔。


ひとつ隣のクラスの廊下で楽しそうに笑ってるあいつ。

まるで、私には入れない世界を自分だけ作っているような。
そんな風に見えるのは私の考え方が歪んでいるせいなのかもしれないけど。

「あ、小春ちゃんバイバイ!」

軽く肩を叩かれクラスメイトの女の子が手を振ってきた。

「ああ、バイバイ」

去っていく彼女の後姿を見ると隣に男の子がいた。

(あの子達、そういえば最近付き合い始めたんだっけ)

幸せそうに手を繋ぎながら帰る二人を見ていると、なんだか胸がもやもやして苦しくなる。

私達も付き合い始めて半年経つのになぁ…。

キッドとはクラスも違うし、休み時間には私の知らない友達と遊んでるし、学校ではあまり接点が無い。

最近、学校でいつも一緒にいるカップルと学校では疎遠な私たちを比べてしまいがちなのが自分でも分かる。


それどころか、付き合ってるのに私の事を気にしようとしないあいつが

「…ムカつく」

ボソッと呟いてしまった。


するとなんだか一人でいるのが恥ずかしくなってきた。

キッドと帰ろうと待っていたけれど、私に気付く様子も時間を気にしている様子も無いので一人で帰るとする。

(少しは気にしろばーかばーか)

心の中で叫びながら彼の隣を通って玄関に向かう。

「……」

キッドを横切ったとき、ほんの一瞬だけ彼の話し声が止まった気がした。
振り返りたいけれど、ここまで来たのだから気にせず歩く。


下校時間から少し遅れての下校。
人気の無い廊下を一人で歩くのがこんなに寂しいものだとは思わなかった。
振り返らなかったことに少し後悔すら覚える。

『一人だと寂しいから帰ろう』

素直に言えたら楽だろうな。

なにか事ある度に(言いたいことは相手が気付くまで黙っておこう)と思ってしまうのが私の悪い癖。

そんな憎たらしい強がりが、心に引っ掛かるものを作ってしまったのかもしれない。


靴を穿きながら冷静に考えていると、目頭が熱くなってくる。

帰りたくない。

何となくその場にしゃがみこむと、不安がどっと押し寄せてきて涙が溢れてきた。


「一人は寂しいよキッド…」



「ならそうと言ってくれ」

「…っ!」


突然耳元で声が
して固まってしまった。

「キッド…?」


振り向くと前かがみになったキッドが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。

「寂しいなら俺に言ってくれ」
キッドはそう言いながら私の手を取って立たせてくれた。

キッドの顔を見上げようとすると彼の腕が伸びてきてそのまま抱きしめられた。

「寂しい思いさせてすまなかったな」


ああ、さっきまであんなにムカついてたのに。
抱きしめられるだけで気持ちが軽くなっていく。


「キッド」

「ん?」

「一人じゃ寂しいから一緒に帰ってよ」

言い終わらないうちに恥ずかしくてキッドの胸に顔をうずめた。

「当たり前だ」

ぎゅっとまた抱きしめられる。


なんだ、簡単なことだったな。
寂しさが幸せで埋めつくされるのは。

「これからはちゃんと思ったこと言うね」


またひとつ、君の体温の暖かさを知ったのでした。

fin.
あとがき→
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ