Short Dream
□ディーノハピバ!
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『今日、会えない?』
あたしのその一言で、ディーノさんの声色は困惑一色に染まった。
-「悪ぃ、今日はちょっと難しいな…。2日後なら空いてんだが……どうしたんだ?突然。」
電話越しに、心配そうな表情が浮かぶ。困らせてるのは、分かってた。
『……会いたい。』
何で自分で忘れてるの?
今日が何の日か、ディーノさんが一番知ってるハズなのに。
あたしの誕生日には、ディーノさんはサプライズで会いに来てくれた。
だから今度はあたしが驚かせたいと思ってた。
だけど……予想通り、ディーノさんは忙しくてあたしの計画に着き合う暇なんて持っていない。
『…ごめんね、何でもない。ディーノさんが空いてるなら、2日後で…』
-「何かあったのか?」
『んーん、いいの。じゃあ、お仕事頑張ってね。』
本当は、2日後じゃ意味が無い。
今日じゃないと、ケーキもワインもプレゼントも、価値が落ちちゃう気がする。
電話を切ってから、ため息を一つ。
窓越しには、ぼんやりとオレンジ色の光の列。
あたしの沈む心もやんわりと包む。
だけど、ね。
大好きな人の誕生日を祝えないのは、つらいよ。
素直に電話で「おめでとう」だけ言えたなら。
それさえ言えないあたしは、何なんだろう。
面と向かって言うことにこだわって、結局伝えられずに。
『もっかい、電話しようかな……』
ううん、そんなのダメ。
ついさっき「お仕事頑張って」って言ったばかりじゃない。
『………ディーノさんっ…』
堪え切れずに口から洩れた彼の名前に、愛しさと寂しさが込み上げて。
滲んだ視界をそのまま閉じて、テーブルに突っ伏した。
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ブーッ、ブーッ、
『ん…?』
どれくらい寝てたんだろう。
携帯のバイブに起こされて、目をこする。
ディスプレイに映った名前は……ディーノさんだった。
-「鍵、開いてっか?」
メッセージはそれだけ。
何処の?
あたし、戸締り心配されてるの?
何となく気になって、玄関に向かう。
『あ。開いてた…』
ディーノさんのメールのおかげで、開けっ放しにしないで済んだ。
心の中で感謝しながら、返信する時に「誕生日おめでとう」も伝えようと決める。
と、その時。
ブーッ、ブーッ、
『わっ!』
突如起こった手の中の振動に、その場で跳びはねた。
また、ディーノさんからメール。
今度の内容は……
-「もう少しそのままで」
『…何が?』
あたしが返信しないうちに連続でメールするなんて、珍しい。
それに、句読点も無い文面。
必要最低限しか書かれてない文面。
何をそんなに急いでるのか、
何をそのままにしておけばいいのか、
全く分からないままドアのぶに手をかける。
取り忘れてた夕刊だけ取って、鍵閉めよう。
ディーノさんにも戸締り心配されちゃったし。
色々考えながらボーッとドアを押しあけると、何かに当たった。
「でっ…!」
『………え?』
不思議に思って覗いて、ビックリ。
玄関前でおでこをさすりながら尻もちをついていたのは、数秒前にメールをくれた人。
『ディーノ、さん…?』
「いって〜〜…よぉ、元気だったか?」
何で、何で。
今日は仕事があるって……
だから、2日後って……
混乱しまくりの思考回路を読み取ったかのように、ディーノさんは言った。
「お前が、会いたいって言うから。」
『そ、そんな、それだけで…!』
「俺にとっては、“それだけ”の言葉がすんげー大事なんだよ。」
普段あたしが駄々をこねないから、ディーノさんは寂しく思ってたって。
だから、今日電話でこぼした願いを、何としても叶えたかったって。
『ディーノさんっ……』
玄関から飛び出して、未だ尻もちをついてるディーノさんに抱きついた。
全身が冬風に包まれて、冷やされてく。
「おいおい、こんなトコで……風邪引くぜ?」
『お誕生日おめでとう…ディーノさん…』
「ん?……あぁ!そーだったな!そーいや部下がソワソワしてたぜ。そっか……だからお前も、会いたいって…」
『ディーノさん、無理しないで……あたしに会いに来るの、仕事終わってからでいい。ディーノさんが暇になったらでいいの……あたし、我慢する。ディーノさんのこと、大好きだからっ……』
言えた。
全部全部、言えた。
気持ちを吐き出して更に強く抱きついたあたしを、ディーノさんは優しく抱きしめ返す。
「俺は、仕事より恋人が大事なんだけどな。それでも、時間詰めて会いに来ちゃダメか?」
『でも……、』
「それに、誕生日くらい、愛する人と過ごしてーんだ。」
ディーノさんの言葉は、いつもあたしを黙らせてしまう。
心臓の、一番奥を掴んでしまうの。
「だから、今夜は……仕事は忘れる。」
コツンと合わさった額から、ディーノさんの熱が伝わった。
そして、お互いの白い息が混ざる中、柔らかいキスが交わされた。
わがままをきいて
(たまには、ゆるしてね)
(そのわがまますら、愛しいから)
fin.