歌姫お題SS
□Virgin Road
1ページ/5ページ
※思いっきり死ネタ
幸村が若干やんでます
史実、いろいろ捏造
微妙なハピエンなので、苦手な方はご意ください。
―今までの孤独や痛みや罪、愛全てに心からありがとう。
その日、信州のとある屋敷から一人の花嫁が雪国に嫁ぐことになっていた。
よく晴れた秋晴れの日のこと。しかし、冬の気配が確実に刻々と近付いていた。
白無垢に身を包んだ花嫁の表情は、うつむいていてうかがい知れない。
「姫、籠が到着いたしました。」
と部屋の外より侍女から声がかかる。
「しばし、待つように伝えてはくれぬか?」
花嫁は躊躇しているようだった。
「はい。」
籠を運んできた者たちは、花嫁の嫁ぎ先の者たちである。寒い中、花嫁の侍女から少し待ってほしいと言われたので、機嫌を悪くしたが
「姫はこれよりこの地に戻ってくることはできません。姫の気持ちを汲んでください。」
という侍女の口添えにより、少し同情して待つことを承諾した。
花嫁は身一つで嫁ぐことになっており、花嫁道具は何一つなく、その上、自分の持ち物一つ、侍女一人として持っていくことは許されない。それは、花婿というよりその上からとの取り決めであり、現に来ている白無垢でさえも花婿から送られてきたものだった。
「これすらも許されぬのか・・・」
花嫁は傷だらけの朱塗りの二槍を握った。昨日まで使っていたもので、これだけはなにとぞお許しいただきたいと花婿に頼んだが、かなわなかった。
「佐助。」
花嫁は天井に向かって声をかける。
「やれやれ・・・」
ため息とともに、花嫁に仕えている忍が畳の上に音もなく降り立った。
「いろいろ辛いのは、わかってるけどさぁ、花嫁がそんな顔してちゃねえ・・・」
彼の砕けた話し方を聞けるのも、おそらく彼に会えるのも今日で最後。
今生の別れ。
彼は、花嫁が小さい頃から仕えてきた忍で、花嫁が危険な目に陥ったときは、何度も彼女の命を救ってきた。
「佐助・・・今まで世話になったな。」
「やだなー。らしくないこと言わないでよ〜。」
花嫁は今にも泣きそうだった。
今までちゃんと言えなかった言葉。
「佐助、ありがとう。」