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咢に抱き締められた時は
びっくりもしたけど
それよりも嬉しかった。


さっき咢が諦めた様子で
亜紀人に代わろうとしたときは
正直、焦った。


きっと…いや、絶対。

誤解されてるに決まってるから。



あたしは、あの頃から
咢に対する気持ちは
なに一つ変わってないのに。



だから、今一番伝えないと
いけないことを言おうとしたけど
やっぱり恥ずかしい。



でも咢は分かってくれたみたいで。


それだけでも。

あたしの表情だけで
何を言いたいのか
分かってくれたことだけで。

すっごく嬉しかった。



まさか抱き締めてくるとは
思わなかったけど…。



久しぶりの咢の匂い。


大好きな咢の腕の中。


これほどまでにあたしを
落ち着かせてくれる場所は

宇宙のどこを探し回っても
何処にも無い。




そして言われた一言。




「おかえり、ナシ子。」




鼻の奥がツンっとした。




「ただいま、咢っ。」




でも、あたしが泣いちゃダメ。



あたしは泣くのを我慢して
抱き合ったまま
咢の顔を再確認する様に見た。



本当に、咢だ…。



あの頃……
いや、2年前から
全く連絡を取らなかったのは
あたし。



2年前、急に姿を消したのも
…あたし。



咢だって、自分のことが
嫌いになったんじゃないか。

って、思っちゃうよね?

なにかあったんじゃないか。

すっごく心配するよね?



自分の彼女(多分)が急に
音沙汰もなく
消えちゃったんだから。



やっぱ、あたしって
ちょっと自意識過剰
すぎるかな…。



でも、この2年間
あたしの心の中にずっといたのは
咢だったんだよ?



毎日毎日
咢を思い出す度に
会いたくて
どうしようもなかった。



この状況は
あたしが作ったものなのに。

自分の自己中さに呆れてた。



なんで急に居なくなったのか
きっと凄く聞きたいハズだ。



だけど咢は聞いてこない。



あたしから話すのを
待ってくれてる。



そして、責めることもせず。

ただ、抱き締めてくれた。



こうしたら
あたしが安心するって
知ってんのかね。


誰だっ、こんなに
いい男を生んだのは!



いっつも咢に
支えられてばかりだった。

助けられてばかりだった。

…今も。



だけど。



今度はあたしが。
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