S T O R Y
□論より証拠
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朝でも昼でも夜だって。
指先で触れて、
抱きしめて、キスをして、
手を繋いで、
見つめて、囁いて、
熱を交わしたい。
何年も四六時中、心を占めるのは、ただ一人。
締め切りも明けて、肩の荷が降りた。
今日は歩きたい気分だったから、車は使わず本屋へ向かう。
暑かった夏が終わり、頬を掠める風も涼やかだ。
空にはびっしりと鱗雲。
秋も終わりに近づいたら、色づく紅葉を見に行こう。寒くなったら温泉…いや、いっそ南の島か。
ああそうだ、今年はコタツを買って、鍋もしよう。鍋奉行とやらをやってみたい。
勿論すべて、美咲と一緒に。
「いらっしゃいませー」
近い未来に想いを馳せていれば、あっという間に到着した。
目的の本をレジに持って行くと、嫌な物が目につく。
伊集院先生の漫画キャラクターのフィギュアだ。
「あ、それ今日入荷したとこなのに、ラスト一個なんスよー。シリアルナンバー入りで、超々々プレミアムのクリスタル・ザ☆漢です!!」
無駄に愛想のいい店員が、ニコニコと説明してくる。
あの先生の物なんて、正直買いたくない。
だが今日入荷ということは、美咲は手に入れていないだろう。
買って帰ったら、きっと喜ぶ。
しかし、あの先生を好き好き言うのを聞かなければならなくなる。
フィギュアを睨んで、しばし葛藤した末……それを店員に渡した。
「お買い上げ、ありがとうございまーす!」
例え、嫌いな物であっても、美咲のためなら仕方ない。
本屋の袋を抱え、帰途についたが、通り掛かった店で美咲に似合いそうな服を見つけ、立ち寄った。
「そちら、秋冬物の新作でございます」
「じゃあ、このセーターとコートとマフラーと……」
「お色も数種ご用意しておりますよ」
「――全部ください」
幾つかだけ持って、後は宅配してもらった。
暖かそうだったし、美咲好みの色だ。
喜んでくれるだろう。
美咲の笑顔を浮かべると、思わず口元が緩む。
早く、家に帰ろう。美咲が夕飯のシチューを作って待っている。
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