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□光と太陽の約束
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これはホーリーロード決勝戦の前日のこと。神童の病室をあとにした瑞貴は、もう一つ病室へやって来た。
「いよいよ明日だね、瑞貴」
「うん! やっとここまで来たんだ……!」
その相手は準決勝で戦った新雲学園サッカー部のキャプテン・雨宮太陽である。試合後に病院へ運ばれたものの、あれからはちゃんと治療に専念しているので、病気が治るのも早くなるだろうと医者に言われた。
「……いいな」
「えっ?」
「僕も『決勝戦』という舞台で雷門と戦いたかった。もちろんあの準決勝も想い出と生きる糧を与えてくれたいい試合だったけど、聖堂山が決勝戦で雷門中と戦うなんて、悔しくもあるし羨ましくもあるよ」
中学サッカー日本一を決める大会として、決勝戦は特別な舞台だ。フィフスセクターの勝敗指示が出るときもあるが、聖帝選挙の結果が決まって出ない場合もある。
おまけに雷門中は革命のため、たとえ勝敗指示が出ても無視して勝ちに行く。それは即ち『唯一の自由なサッカー』だとも言えるので、誰もが憧れる決勝戦で優勝を巡って自由に戦えるなど、雨宮にとっては羨ましいのだろう。
「でも僕は瑞貴たち――雷門に勝ってほしい。スタジアムには行けないけど、ここで応援しているね。もちろん中継だって見るから」
「太陽……」
病気にも負けずサッカーが好きだという気持ちが強く、瑞貴は初めて会ったときから雨宮に惹かれつつあった。名前の通りまるで『太陽』のような輝きが彼にはあるからだ。
『君たちと――君となら本気のサッカーを楽しめるはずだからね!』
あれからちょくちょく病院に寄ったり連絡したりしていたが、準決勝のあのひと言と表情で、瑞貴の心が完全に決まった。今の瑞貴がホーリーロードを勝ちたい理由は『仲間とともに優勝したい』、『革命を成功させたい』というそれだけのためだけじゃない。『まだまだサッカーがしたい』、『また自分とサッカーがしたい』と望んでいる雨宮のためでもある。
そのために革命やフィフスセクターのことなど関係なく、初めて病院の庭で会ったときのような楽しいサッカーをしたい。そして雨宮が必ず病気を治してくれると信じている。――そして同時にこの気持ちを伝えたいとも、瑞貴は思った。
「……あのね、太陽」
「ん?」
「私、優勝したら太陽に――」
チョンッ。
瑞貴がある言葉を言おうとしたらその続きが言えなかった。自分の唇を閉じているのは雨宮の人差し指だった。そしてその主である雨宮は初めて会ったときのように、どこかイタズラっ子のように笑っていた。
目をパチクリした瑞貴を見た雨宮は、その人差し指を瑞貴の唇から離した。
「知ってる? そういうの『フラグ』って言うんだよ」
「フラグ?」
「それを言ったら優勝できなくなるかもってこと」
「えっ!? そうなの!?」
「だから優勝してよ。僕は予告されるよりもハッキリと伝えてほしい」
「ええっ!?」
その言葉に瑞貴は目を見開いた。それは雨宮が先ほど瑞貴が何を伝えたいのかをわかっているということだから。