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□lengua de gato(o gata?)
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昼下がりの、なんて事のない、それでもその価値を知る者にとっては例え様もなくかけがえのない一時

爽やかな風がそよそよと入り込んでくる窓辺に向かって目を細める彼女の目の前に、ボクはティーセットを恭(うやうや)しく差し出した。

彼女はにっこりと微笑んで幸せそうにそれを受け取り、けれどそれに手をつける事はない。



今はまだ



【猫舌と猫舌と毒舌と】



ココは、リビングで午後の少し気だるげな時間を満喫している彼女の隣に腰掛けて、同じ風を共有する。

優雅な仕草で頬杖を付き、軽く首を傾げて彼女を見下ろせば、彼女はその視線と、その意図するものに気付いたのか、少し憂鬱そうに溜め息をついてみせた。


「そんな、哀れな生き物を見るような目はやめてもらえませんか」

「そんな目に見えた?」

その溜め息を殊更さりげない仕草で受け流して、ココはテーブル脇に置いたままだった中皿をテーブルのセンターへと移動させる。

そして何かを言おうと開きかけたその口へと、丸いクッキー放り込んだ。

「ん、美味しいです〜!やっぱり焼き立ては最高ですね!」

批判めいた言葉を紡ごうとしていた口は途端に上機嫌な弧を描き、彼女は楽しそうにクッキーをモグモグと咀嚼する。
しかしそれでもその手がカップへと伸ばされる事はなく、ココが淹れた紅茶の一番美味しい瞬間は、そうしてにこやかにやり過ごされていく。

2枚目に手を伸ばした彼女へ、ココはふっ、と息を洩らした。



「ラングドシャだよ」

「ラングドシャ?このクッキーの名前ですか?」

上機嫌に細めていた目を少し開き、彼女が問い返す。

「そう」

「どっかの地名みたいですね」

「そうだね」

ココは先にカップに口を付けてから、自身もクッキーを1枚手に取った。


ラングドシャ、ラングドシャ…

しばらくそう呟いた彼女がふと動きを止め、もしかして、とココを見上げる。


「ラング・ド・シャ?」

「そう、ラング・ド・シャ」

ふわりと、通り過ぎた風が彼女の耳元の髪を持ち上げた。



―あぁ



ココの目も、眩しいものを見るように、猫のように細められる。


―なんて事のない風を髪飾りにして、今日も彼女は輝く程に美しい。


「あのですね、はっきり言えば良いじゃないですか。なんてったって毒舌キャラなんですから」

「なんの事だい?」

「これの事ですよ」

そう言って彼女はクッキーをもう1枚手に取り、すぐにまたそれを頬張る

「美味しくないかい?」

「まさか、大変美味しゅうございますよ」

皮肉めいたやり取りを2、3繰り返してから、彼女は更にクッキーをサクリと頬張り、そこでようやくカップに手を伸ばした。


「大体、私に言わせれば、熱かったら味なんて分かんないじゃないですか」

「本来、それは飲み方の問題であって各個人が持つ舌の機能に差異はないらしいよ」

「はいはいそうですね、私が悪うございました」


サクサクと、そよそよと、上機嫌な時間は流れて行く。


「…その瞬間しか美味しくない食材があるんだ」

「その瞬間?って、それを決めるのは各個人なんじゃないですか?」

あー、美味しい♪
なんて言いながら幸せそうに少しぬるくなった紅茶を飲む彼女を見れば、確かに彼女が良いならそれで問題ないと思えてしまうココは、それでも優しい雰囲気のまま言葉を続ける。


「いや、その瞬間以外に旨味は存在しない。…つまり、食材自身が自分の食べられる状況、タイミングを選ぶ」


「…マジですか?」


甘いクッキーを口に残したまま、うへぇ、という顔になってしまった、その口元に少し付いているクッキーの欠片をそっと摘まんで、ココの目が猫のように細められた。


「体験してみる?」

「はい?」

思わず聞き返した口は、次の瞬間更に歪む。

「いやぁ、遠慮しときます」

「そうか、残念。なら、しばらくお別れだ」

「はぁ?」

突然の発言に驚いた彼女は、それでもすぐにココ纏った決意の空気を敏感に察知した。

ふわり、と
気持ち良く吹き入る風に合わせて、ココがひとつ頷く。


「修行に出る」


食技を極める為にね


美食屋として、いつかは行かねばならない場所だ。


「やっぱり行きます!」


突然の宣言に、今度はココが少し驚いた顔をする。

「まだどんな場所で何をするか説明もしてないのに?」

「行きますよ」

クッキーを完全に飲み込んで、紅茶でさっぱりさせた口で、彼女は改めて宣言する。



「行きましょう」



穏やかな風はココの髪を揺らすには至らない。

それでもその瞬間、僅かにターバンから出る彼の黒髪がさらりと揺れたのは


―ラング・ド・シャを食べた猫舌な彼女の仕業
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