拍手ログ

□3分クッキング?
1ページ/1ページ

「いーざ進め〜や〜キッチ〜ン♪
めざす〜は じゃっがーいも〜♪」

「じゃがいもなら貯蔵庫だよ」

 サクッと突っ込まれた私は、いきなり出鼻をくじかれてしまう。

 いや、まぁ、そうなんですけど。
 私だってさすがにじゃがいもが貯蔵庫にあるのは知ってるんですけど。

 歌は歌だから仕方がないと思うんですよね。
 いざ進めや〜貯蔵庫〜♪って歌っても別にいいと思いますけど、歌詞を変えたらリズムがおかしくなったりしますし。

…と、そこまで考えていた私は、突然名案を思いついた。

「じゃあ、私が歌いますから、ココさんが作って下さい。」

「え?」
 彼は私の発案に可愛らしく首を傾げる。

 パチクリ、とまばたきをすれば、その瞼のフサフサとした睫毛から風が舞い起こった気さえする。

「ですから、私は今から歌を歌いますんで、それをヒントに料理して、一体何を作る歌なのか当ててみて下さい。そうですねぇ、大サービスして3回繰り返しますから。」

 どうです?と彼を覗き込むと、間髪入れずに「面白そうだね、やってみようか」と良い返事が帰ってきた。

 思わずニシシと笑ってしまう。
 包容力がある振りをしながら、実は結構ノリが良い事を私は既に知っているのだ。

最初に1度通して歌う。
 彼はそれで材料を把握してキッチンのカウンターにそれらを並べた。

「ゆでた〜ら♪皮をむい〜て、グニグ〜ニ〜と、つ〜ぶせ〜♪」

「グニグニか…なんか微妙な表現だね」

「まぁまぁ、グニグニと言われた以上は頑張ってグニグニして下さい!じゃあ続けますよ?
さ〜あ勇気を出し〜♪
みじん〜切り〜だ包丁♪
タマネーギ目にしみて〜も
涙こらーえて〜♪」

「玉ねぎはね、立ち位置さえ気を付けたらそんなに涙も出さずに済むんだよ」

そんな注釈はきれいに無視して私は歌を続ける。

炒めようミンチ
塩、コショウで
混ぜたならポテト、丸く握れ

小麦粉、卵に、パン粉をまぶして

「揚げた〜ら、ふふふふん♪あ、ここはまだ秘密なんでふふふふんですから。キャベツ〜はど〜うした〜?」

「『どうした』って、どういう意味?」

「あ、それは『キャベツも忘れちゃいけませんよ』って意味です」

「なる程ね」

 一体何を考えているのか、彼は結構真剣に、淀みのない仕草で次々と作業を進めていく。

 多分もう歌わなくても良いんだろうなぁ、と思う。ていうか1回で充分に違いなかったのに、何で3回も歌う事にしたのか…。

まぁ、女に二言はない。
 とりあえず、キッスさんにでも歌ってあげるか。
 最後の1回は窓を開け、キッスさんのいる巣に向かって歌ってみた。

 途中からジュワーと何かを揚げる音と香ばしい香りが鼻をくすぐりはじめる。

 3回目を歌い終わった私は、キッチンの中をこっそり覗き、そこで綺麗な黄金色に揚がったコロッケを発見する。

 ふと目が合うと、彼は次々とコロッケを揚げながら、泳ぐような仕草で揚げ立てのコロッケを一かけフォークに刺してこちらに突き出してきた。

 そのドヤ顔を可愛いなぁと思いながら私は2回ふうふうしてからそれを口にした。

「どうかな?」

「美味しい!!スッゴく美味しいです」

「歌にはなかったけど、タマネギも炒めたんだよ」
「うわー!美味しい!こんな美味しいコロッケ生まれて初めて食べました〜♪」
「塩胡椒だけじゃ味気ないからね、マヨネーズと、醤油、あと隠し味にみりんも」
「もう一口食べても良いですか?」
「もちろん。小麦粉にはね、少しだけ片栗粉を」
「やっぱり美味しい〜!あの歌って、実は歌の通りに作ってもあんまり美味しくできないって聞いてたんですけど、ウソだったんですね〜!」

「…ボクの話、聞いてる?」

「キッスさん!キッスさんにも持って行ってあげましょう!」

「あのね、無邪気なふりしても誤魔化されないよ?」

「行ってきまーす!」

■□■□■□■□■□■
「どうです?」
「うまいな」
「でしょ?でしょ?」
「随分腕をあげたな」
「ありがとうございます♪」

「それで、何を手伝ってもらったんだ?」

「あ、バレてました?へへへ。えっと、私が歌って、ココさんが作りました」
「…そうか。通りでうまいはずだ」
「ありがとうございま〜す♪」

 その後も私はココさんの「歌詞はこう変えた方がいいんじゃないかな」攻撃をひたすら誤魔化し続けた。

 几帳面な彼氏を持つと意外な苦労があるものだな、と思ったのは私だけの公然の秘密だ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ