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□3分クッキングその4
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その日、珍しく早起きをした彼女は、台所でレタスを右手に高く掲げ始めて、ボクは「また始まったな」と思った。
◆夢主の3分クッキング◆
「レタスを一玉良く眺め〜♪」
そう言いながら彼女はしげしげとレタスを眺める。
「裏っ返して芯を抜く〜♪」
「ザルで〜水切り念入りに〜♪」
「氷み〜ずで冷やします♪」
レタス♪レタス♪
レタス♪レタス♪
特製のドレッ〜シング♪
ご機嫌に歌う彼女にジェスチャーで断りを入れて、ボクも朝食の支度にとりかかる。
彼女は満面の笑みでそれに答え、ボウルの中身をかき混ぜる。
お酢と油と塩胡椒♪
隠しあ〜じはグラニュー糖♪
レタス♪レタス♪
レタス♪レタス♪
特製のドレッ〜シング
シャカシャカとボウルをかき混ぜながらノリノリで左右に揺れるその体を避けながら、恐らくは彼女が作っているであろうサラダに合うのは何かな?とボクは思案を始めた。
レタス♪レタス♪
レタス♪レタス♪
炒めて食べても美味しいよ♪
「出来ました!完成です!食べてみて下さい!」
ボウルを抱えた彼女はフォークを直接そこにブスリと刺して、それを「あーん」と言いながらボクに差し出してきた。
「じゃあ、いただきます。…ん、うん。美味しいよ」
一口味見してそう言えば、彼女の顔は見る見る紅潮し、次の瞬間クシャリとなって「キ、キッスさんにもあげてきます!」と外へ飛び出して行った。
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「キッスさん!キッスさん!聞いて下さい!いや、見て下さい!ていうか食べてみて下さい!初めてココさんに美味しいって言ってもらえました!」
はい、あーん
そう言って差し出された手の中の物をくちばしでつまみ上げ、真上に上げた所でパクリと口を開けて咀嚼したキッスは、「で、これは何だ?」と聞いた。
「レタスのサラダですよ」
そう言って作り方を歌付きで説明されたキッスは、最後に簡潔に「そうか、レタスをちぎったのか」とまとめた。
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「いや、確かにそうかもしれませんけど、私が心を込めてちぎれば、それがきっと味にも影響するはずなんですよ!」
だからこれだってれっきとした料理なんです!なんて窓の向こうから聞こえてくる必死な声を聞きながら、ボクはしばし思案する。
歌の事は良く分からないから、やはり直接彼女に聞いてみるべきか…
ボクはぽつりと呟いた。
「『ザルで水切り念入りに』と『氷水で冷やします』の順番は、逆じゃないのかな…?」