sirena2

□hasta pronto
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【じゃあ、また】 

全速力で家路を急ぎながら、ココは言いようのない不安に胸が締め付けられるようだった。

 それが一般の人であればただの予感ですむものでも、占い師としての地位を確立させた自分となると、その予感をただの予感として片付ける事ができない。

「キッス」
 どうにも苦しくてその名を呼べば、「分かっている」とでもいうように力強い返事と羽ばたきが返ってきた。

 はるか前方を、少しでも早く彼女が見えるようにと見据えるココが、そこを見たのは本当に偶然だった。

 自分の事は占えない、自分の未来だけはどうしても見れない、という占い師が多い中、ココはその優秀さからか自分の未来も、特に手相は良く視る事ができる。

 トリコがフグ鯨捕獲の為にグルメフォーチュンを訪れた時も、深夜に店で女性たちに囲まれた時も、自分の手相は未来を違えることなく教えてくれていた。

 その手を、無意識の内に握り締めて少し色を薄めていたその手の平を、自分を落ち着かせるように1度、開いて、握って、開いたその瞬間。

 ココの目に飛び込んできたその手相は

【大切な物の略奪】

 その瞬間、ココはキッスに指示を出し、方向を変える。

 キッスはすぐに反応してココの指示する方角へ再び全速力で飛び始めた。

 しかしココはその直後、その方向をまた変えるよう指示を出す。
 もちろん、キッスはその指示通りにすぐさま進路を変更する。

 そんなやりとりを何度か繰り返した後、ココは自身の手のひらを見つめたまま、方向を変えるよう再びキッスに指示しながらも、その方向をどちらに変えるのか指示する事ができなくなってしまった。

【失せ物は届かない場所へ】

 ココの唇がわなわなと震え始める。

「そんな、だって、さっきまで」

 さっきまで、一緒にいたのだ。

 絶対に、かすり傷1つ負わせる事なく、今日という日を乗り切らせてあげようと、そう思っていたのだ。

 ココの様子に困惑したキッスが、下降を始める。

 気づけば、そこはグルメフォーチュン外れの、よく彼女と通ったあの道へと続く場所だった。

 着陸したキッスの背からよろけるようにココは降り立つと、そのままその場に座り込んでしまう。
 ガクリ、と膝から落ちるように崩れ落ちる自分を、頭の片隅では叱咤激励している自分がいた。
 ボクの占いの確率は97%、たった97%だ。
 3%も外れる確率が残っている。
 今すぐ家に戻って、あの扉を開けて、そしたらきっと彼女は昼ご飯の支度に四苦八苦している事だろう。
 帰宅したボクを見て、おかえりなさい、おつかれさまでした、座ってていいですよ、今日のお昼はスパゲッティにしましょうと、唯一の得意料理に腕を奮いながら、そんなねぎらいの言葉を自分にかけてくれるに違いない。

 もし仮に彼女に危険が迫っているなら、一刻も早く彼女を助けに行こう。
 彼女を守るという点において、ボクほどの適任者はいない。
 なにせ、ボクの攻撃は誰にとっても有害で、けれど彼女には一切効果がないのだから。
 トリコやサニー、ゼブラなんかには出来ない芸当だ。
 彼女を自分の戦闘に巻き込んでも、彼女を巻き添えにしてしまう可能性は0、つまり彼女の安全は100%保証される。

 そうだ、行かなければ。
 そうして、ココは勇気を出して再び自分の手を広げる。

 そしてそこに表れた無情な手相に、今度こそ立ち上がる力を失った。

失せ物は―

 いつの間にかどんよりと曇っていた空から、ポツポツと、天のしずくが降り注ぐ。

最愛の失せ物は、海の泡に―

 やがて雨足を強くする森の中でただ一人、ココはいつまでもその場を動く事ができなかった。
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