sirena2
□dragon de miel
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【ハニードラゴン】
スイーツハウスが跡形もなくなる数時間前−、美食王決定戦の会場で開始前の宣伝用映像を撮っていたティナは、ディレクターがスマイル事務所のスマイルに対して設営を急ぐようクレームを入れている時にたまたまその内容を聞いてしまった。
「スマイルさん、今どこにいるんですか!?え?トリコの家を作っているって?そんな、こっちの会場は大丈夫なんですか?はい、はい、本当ですか?分かりました。じゃぁ、待ってますからね!」
ティナの耳がピクピクと反応する。
トリコの新しい家!?
スクープの匂いてんこ盛りじゃないの!
ティナは急いでイベントの進行表を確認する。幸い、イベント開始まではまだ少し時間がある。
今から行って帰ってくれば、直前のリハーサルに間に合わなくなる可能性はあるかもしれないが、本番に遅れるという事はないだろう。
そう判断したティナは反対するディレクターを振り切ってトリコの家までやって来たのだった。
「うし!じゃぁいっちょ行ってみるか、美食王決定戦の会場へよ!」
「はい、トリコさん!楽しみですね〜。どんな食材が集まるんでしょうか?ワクワクしますね〜!」
「お兄ちゃん、早くヘリの準備するし!ウチもトリコと一緒に会場に行ってデートの続きするんだから!」
「おいおい、今ハンサムっつったか?ていうか私はさすがにもう研究所に戻らんといかんのだが」
「うっせぇハゲ!そんなのヨハネスに迎えを頼めば良いんだし!うちはこれからトリコとデートなの!邪魔しないで欲しいし!」
と、それぞれが今後の予定を立てている中、ナナはちらりとココを見る。
「…どうします?」
ココはちょっとアメリカンに肩をすくめるような仕草をして「ボクはどっちでもいいよ」と返答してきた。
ナナとしては、美食王決定戦という名の通り、美食屋が沢山集まる場所なら正直気が向かないのだが、「じゃぁ、ちょっとだけ行ってみてもいいですか?」とココに尋ねる。
「もちろんだよ」と笑顔で答えてくれるココに礼を言いながら、ナナは自分の判断は間違いないと確信していた。
美食屋という世界から遠ざかる事数年、トリコとの再会をきっかけにココは再びハントの世界に戻ってきた。
最初は仲間を助ける事が目的だったのかもしれない。
ジュエルミートの時も、アイスヘルの時も、彼はいつも協力を乞われる形で現地へと赴いていた。しかし、実際に様々な食材の捕獲に関わる内に、きっと彼自身の中に眠っていた美食屋の血も目覚め始めているんじゃないかとナナは見ている。
フルコースをナナにご馳走してくれながら、アカシアのなんとか(覚えていない)という、捕獲レベルの高い食材を目標に据えた事からも、彼が美食屋としてより高みを目指そうとしているのが伺い知れる。
この流れはきっと、彼にとって非常に好ましいものに違いない。
ならば、世界中の美食屋達がとびきりの食材を持って集結する会場にはぜひ足を運ぶべきだ。
ナナはそう考えていた。
会場へ向かう前にナナ達は一旦家に寄って支度を整える。
ココはスーツから普段のボディースーツに着替え、ナナもラフな服に着替えたほうが良いと言われ、マキシ丈のワンピースにサンダルを履いて会場へと向かう事にした。
「楽しみですね」
キッスの背に乗ってそうナナが後ろを振り返れば、「そうだね」とココも笑い返してくれた。
「良い事がありそうだ」
そう予言する占い師の楽しそうな声に、ナナはますます大会が楽しみになった。