sirena2
□agua
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【水】
慌てた様子でブラを脱ぎ捨てるナナを見て、ココはちょっと面食らう。
もちろん、この先の展開がどんな形でも自分は構わないのだが、ナナを取り囲む電磁波はなんというか…色とりどりで、不安や恐怖も織り混ざったその様子にココは違和感を感じ始めた。
ナナは脱いだブラをまるで気持ち悪い物のように指先でつまんで部屋の隅に投げる。
さっきまでのムーディな仕草なんてまるでなかったもののように、恥じらいも無くパンティも脱ぎ捨て同じように部屋の隅にフルスイングした。
真っ裸でパンツを全力投球され、正直ココはちょっと引いてしまう。
これは…品があるとかないとかのレベルを超越してるな。
ナナは呆気に取られているココの腕にタックルをかます勢いで突進し、一糸纏わぬその胸を惜しげもなく押し付けて、可愛い口を何度も動かしては「キモいキモいキモいキモい〜!!」とパニクっている。
「えっと、」
とりあえず、ココは彼女の突然の変貌の理由を幾つか推察してみる。
「素材が生き物って知らなかった…のかな?」
そして、もっとも有力であろう理由から聞いてみた。
無残にも壁に叩きつけられた下着には、「天兎」と呼ばれる貴重な生き物の毛皮があしらわれている。
一般的に毛皮は装飾品として高値で取り引きされる事が多い。通常の兎の毛よりも若干短く、しかし数倍の柔らかさを持つ天兎の手触りは、世のセレブ達を虜にしている。
しかし生き物と会話ができるナナは(知能の高い動物限定らしい上に、時には理解できない言語で話される事もあるようだが)普通の人よりも彼らに対して親近感を抱きやすい。
ああして殺され、毛皮となったものを身に纏うなんて信じられなかったのかもしれない。
しかしそんなココの推論は、ナナの耳には一切入っていない。
「白は汚れが目立つからいりませんって言えば良かったです〜」
ナナのオッドアイ、オーシャングリーンの色をした右目には今にも零れ落ちそうな丸い水の玉がせり上がって来ている。
ココはそれを綺麗だななんて思いながら、とりあえず「大丈夫だよ。落ち着いて、ゆっくり話してごらん」と、普段店で鍛えた接客スキルを存分に活かして対応した。
シーツでナナをくるんだココは、彼女を横抱きに抱えてベッドに座り直す。
ちょっと高めのヒールだったアンクルストラップもさっさと脱がせてしまう。
シーツを当てられて初めてナナも我に返ったようだ。
今更ながら自分の格好に思い至り、自分でシーツの巻き付けを強くしながら、「す、すみませんでした」と謝ってきた。
うん、とその様子にココは満足げに頷く。
見事なうろたえっぷりを見せてくれた彼女だが、きっかけさえ与えればたちどころに復活してみせる。
このしなやかな強さをココは好ましく思う。
普段は結構適当なところがあったりするのも、これでお釣りが来ると実は真剣に思っている。
「大丈夫だよ」
そう笑いかければナナは体の緊張を少し解くが、完全に安心するといった様子にはならない。
「…あれは、私が選んだ訳じゃないんです」
少し言いにくそうにナナは事情を説明し始める。
「どういう事だい?」
「店員さんが突然『お連れ様からです』って持ってきたんです」
ココは少し不思議そうな顔をする。
「ボクからだ、って思ったんだね?」
ナナは気まずそうに唇を尖らせ肯定の意を示す。
「だって、黒髪で背が高いイケメンからって言われたんですよ」
ココさん以外に誰がいるっていうんですか?
そう言われて、ちょっとココは照れたが、特に何も突っ込みはせずに聞き役に徹する。
「店員さんにそう言われてから、慌てて店内を見ても外を見ても、誰も見つけられなかったんですよ」
そんな人間離れした、気障な芸当ができる人がそう何人もいます!?
そう切れ気味に詰め寄られて、ココはうーんと少し思案した後「そう難しい事、でもないかな?」と意外な答えを返してきた。
「ナナちゃん、消命って知ってる?」
消命?
ナナは聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「実際に見てみたほうが早いかな?」
と、その瞬間、まるで煙がかき消えるようにココの姿が消えた