sirena3

□negro brillante
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占いの街、グルメフォーチュン

東からやって来た列車は時刻通りに駅へ到着し、そこで1人の男性を降ろす。


この街に存在する『危険な時間帯』は、列車を運営する会社にも事前に知らされる為、通常であればその時間帯に到着する列車から人が降りる事はない。


もちろん、降りたければ降車は可能だ。
(当然、自己責任になるが)


そして今は無人のこの駅に降り立った彼も、無論この街の事情を知った上でそこに立っている。



街はまるでゴーストタウンのようだが、彼にとってこの状況は全てに於いてむしろ都合が良い。

ゆっくりと駅の階段を降り、大通りを歩きながら、ココは街の様子を観察した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


どうやら自分がいなくてもこの街は正常に機能しているらしい。

建物の状態も、見たところ毒が薄まっているところも見受けられない。


行きに2ヶ月、帰りは1週間ちょっと。

帰ってきてみれば、自分が不在にしていた期間などそう長いものではなかったのだな、とココは何もかも今まで通りの街並みに少し拍子抜けする自分を感じた。



交通手段を変えれば、ジダルからの往路にそう時間はかからなかった。

グルメ馬車は世界の主要都市を回る為、移動ルートは直線ではない。また、移動そのものを楽しむ事を目的として作られた結果、移動速度もそう早くない。

元々移動手段としては相応しくないあの馬車を選んだ結果、貴重な修行の時間を無駄にしてしまったとも考えられるが、それでもあのひと時が自分にもたらしたものを考えれば、どうしても無駄だったとも思えない。


ふと、地響きが近づいてきたかと思うと、建物の一角からクエンドンが姿を現す。


「やぁ、久しぶりだね」


街中の住人が息を潜めてやり過ごそうとする彼を見上げ、しかし特に愛想良くといった素振りも見せずにココがそう話しかけてみれば、クエンドンも特に彼に興味はないといった様子で次の角へと曲がっていく。


本当に、いつまでも人間を試すようなマネをして、いつか駆除されても文句は言えないだろうに、このグルメ時代において大して旨くもない肉を持って生まれるというのは案外幸運な事なのかもしれない。



そんな事を思いながら、ふと視線を感じて振り返ると、クエンドンがこちらを見ていた。

果たして彼がどの程度の知能を有しているのかココには計り知れないが、もし彼がいつもこの街に現れている『彼』で(それはココには識別不能だ)、その瞳が自分に何かを尋ねようとしているのだとしたら、きっとそれは自分にとってあまり望ましいものではなさそうだ。


ココはその視線を振り切り、再び背後を見やることなく懐かしい家路へ向けて歩き始めた。
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