sirena3
□peluqueria
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グルメ美容院 『バーバーグルメ』
一龍会長のフルコース捕獲の旅を終えたトリコは、バーバーグルメの店長でありカリスマ料理人でもあるペンのコース料理を堪能しながら、小松と一緒に新しい髪型についてやいのやいのとやりあっている。
と、ふいにカランカラン、と入店を知らせる鐘の音が店内に鳴り響いた。
「え?ココさん!?」
何気なく入口をみやった小松が、そこにいた人物に驚いた声を上げる。
そこには、小松の存在に少し意外そうな顔をしたココの姿があった。
その意外そうな顔は、トリコと小松の現状を理解した瞬間、「騙された」という表情へと一変する。
事実そうである。
実はトリコはココに「会長のフルコースの謎を知る人物を見つけた。グルメ美容院の店長だ。すぐに来い」と連絡していたのだ。
トリコと2人で挑戦した、一龍会長のフルコース捕獲の旅。
その疲れを癒す間もなく急いで指定された場所へと来てみれば、そこには楽しそうに髪をカットされている仲良しコンビの姿しかない。
一瞬で彼の策略に気付いたココはしかし、それまでの2人旅のようにトリコに強く出る事もできず、問答無用で用意された席に拘束され、強制的にカットコースへ合流する事となった。
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ココは、その涼やかな目元を若干ピクピクさせながら、しかし隣で上機嫌な小松の手前、内面の憤りをあまり表に出す事もできずに大人しくカットを受けている。
普段は容赦なくトリコに対して毒を吐く彼が「へなちょこ」なんて言われながらも現状に甘んじている理由はただ1つ、ここに小松がいるからだ。
彼がその大きな瞳を更に見開き、それから歓喜の笑顔を全開にして「ココさん!」と叫べば、ココはもうにっこり笑って「やぁ、小松君。久しぶりだね」としか言えなくなる。
そして、何も知らない彼が続けざま「ココさんもカットですか?」と無邪気に尋ねれば、「まぁ、そんなところかな」と少し格好付けた返事をするしかなくなる訳で。
そうやって巧みに弱点を突かれたココは、ナイフとフォークでジョリジョリと髪の毛を切り落とされながら、ヒクつく目元をうつむかせたポーズで自身の憤りを精一杯トリコにアピールしていた。
そのくせ、小松に話しかけられれば途端に笑顔でそれに応対するのだから、トリコとしてはもう呆れるしかない。
「やれやれ」
彼は溜め息混じりに王甘ウニをもう一口啜った。
この二人はお互いに意気投合している。
トリコは比較的早い段階でその事実に気付いていた。
というか、誰が見てもバレバレだろう。
そう長い付き合いでもない二人がここまで仲良くなった理由は色々あるのだろうが、最も大きいのはお互いがお互いに、「自分達には良識と常識がある」と思っている事だ(とトリコは推測している)
確かに自分達四天王はみな個性的で、それに付き合う小松も、自然とまとめ役を任されて来たココも、それなりに苦労をしてきたのかもしれない。
だが、二人して「やれやれ」「ですよねー」なんて上から目線なやり取りばかりされると、ちょっと反論したくもなる。
だいたい、トリコに言わせれば、そうやって自分達を見下している2人には、服のセンスが全く備わっていない。
ぶっちゃけ、なんなんだコイツらのコーディネートは?と、トリコは自分で注いだワイングラスを一気に空ける。
(2人とも付き合ってくれないので今日も寂しい1人飲みだが、彼はそういったことは全く気にならない)
この訳の分からない服のセンスに比べたら、自分やゼブラの個性なんてほんの些細な事に感じられる。
あのゼブラですら、服役中の格好はともかく、普段は割と自身に合った服装がきちんと出来ている。そこを見習わおうとは思わないのだろうか?
「ぷはぁ!」
ワインを一気飲みしたトリコを目線でココが嗜める。
「品がない」とでも言いたいのだろうが、最近は昔のようにいちいち口に出して言われる事は少なくなっていた。
いつまでも年上で面倒見の良い兄役をしてもらう程、自分もガキではない、という事か。
確かに、他人の好みにいちいちケチをつけるものじゃない。
赤と緑なんていう、補色同士のコーディネートだろうが、良い年こいてパステルピンクのポロシャツを着て「ユンとお揃にしてみました〜」なんて言おうが好きにすれば良い。
ただ
トリコはちらりと、小松とにこやかに談笑を続けるココを見る
あの髪型だけは許せなかったんだよな
王甘ウニをもう一口啜り、切り落とされた空色の髪の毛、ペン曰く相当なダメージを受けていたというそれをトリコは眺めるとなしに眺めて、こっそり溜め息をついた。