sirena3
□verdad
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「おーい」
「ねぇ、着いたよ」
誰かが私の肩を叩く。
「電車が発車しちゃうって」
「ほら、起きて。行くよ」
そう言われてパチリと目を開けた私の前には、ちょっと心配そうにこちらを眺めている友人達の顔があった
「あれ?」
え?
なんだか頭が混乱する。
私…、私は今まで一体何を?
「寝ぼけちょるね」
「うん、寝ぼけちょるね」
え?あれ?なんて言いながらキョロキョロと辺りを見回す私を見て、2人は顔を見合わせてから呆れたようにそう言い合った。
出発を告げる車内のアナウンスが、一気に私を現実に引き戻す。
慌てて立ち上がった私は荷物を抱えて急いで電車を降りた。
「着いたー!」
「よーし、食べまくるぞー!」
座りっぱなしで固まってしまった体をほぐすように伸びをした彼女達は、地元の幼馴染みだ。
毎回、仕事の愚痴が増えたタイミングでこうしてプチ旅行を企画しては、美味しい料理を食べたり互いの上司の悪口大会なんかを繰り広げて明日への英気を養っている。
今回は、温泉旅館で一泊して、翌日はテーマパークで1日遊び倒す計画にしている。
どんなにいい年になっても子供心を忘れちゃいけない。
幼い頃を知る者同士、こういう時に遠慮も要らない。
この2日間は思いっきりはっちゃけようじゃないか。
私達は事前にそういって盛り上がっていた。
それなのに、現地に到着した今、テンション上がりまくりの彼女達には申し訳ないが、私はイマイチそこまでノリノリになれていない。
…なんだろう。
何か夢を見ていたような気がする。
なんというか、こう…
「ちょっと、大丈夫?」
「やっぱり仕事の疲れが溜まっちょるんよ」
口々にそう心配してくれる友人に向けて、とりあえず私は今の率直な気持ちを述べてみる事にした。
「なんか、…美味しい夢見てた気がする」
途端に2人は盛大に笑い始める。
「はいはい」
「いつも通りね。ちょっとでも心配して損した〜」
さ、いこう
そう言われて私は荷物を持ち上げ、ズボンのポケットを探った。
そこには電車の切符が入っていて、改札の機械にそれを差し込めば、スコンと勢い良く吸い込まれていく。
行く手を阻んでいた障害物はポーンという音と共に私に道を開けてくれた。
「とりあえず、今日は旅館で温泉三昧と豪華夕食食べまくって〜。あ、でも、明日の遊園地に向けて体力も温存しとかないとね」
そうね、と相槌を打ちながら私は、今度は前のポケットから携帯を取り出す。
移動時間は正味2時間だった。
その内爆睡こいてたのは多分1時間もなかっただろう。
最近、確かに仕事が立て込んでバタバタしてたからか、日中のお昼寝1時間はなんだか余りにも非日常な一時で、だから普段寝る時とは違った感じになってしまったんだろう。
そう自分に結論付けて、少し先を行く2人に「まってー」と声をかけて小走りに走り出す。
ふと生き物の気配を感じて電線を見上げたら、そこに一羽のカラスがいた。
電線の上から、カラスは少し首を傾げるようにしてこちらを見下ろしている。
私は、こんな観光地でもやっぱりカラスはいるんだなぁ、と思いながら、前を行く2人を追いかけて旅館へと歩き始めた。