IGO大学体育会美食道部

□蜜月のrevenge
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〜都内、美食道全国大会会場〜


出場選手達がウォーミングアップを行っているロビーの1角に、ひときわ人目を引く青い髪の男が現れた。

隣には小柄な青年を従えている。

「あ、トリコさん!いましたよ、あそこです。おーい、ココさーん、亜弥さーん!」

その良く通る大きな声に、呼ばれた当人だけでなく周りのギャラリーまでが振り返る。


「おい、あれ、四天王のココだろ?」
「あっちにはトリコもいるわよ」
「すげー、俺初めて見た!」

しかし当の本人達は、周りの注目など全く意に介さないといった様子で互いに軽く挨拶を交わしながら歩み寄る。

「聞いたぜ、ココ。今回はヘビー級に出るんだってなぁ!初戦から当たらない事を祈ってろよ?」

今回の大会から階級を1つ上げる事にしたココは、ヘビー級でトリコと当たる事になっていた。


「さすがに仕事をしながらの減量には無理があるからね。そっちこそ、負けた時の言い訳を早く準備しておいた方が良いんじゃないかな?」


早くも一触即発な雰囲気に周りは驚くが、小松と亜弥にとってこれはいつものじゃれあいでしかない。

頭上の言い争いは軽く無視して互いにペコペコと挨拶を交わした。


「小松さん、お久しぶりです。といっても私はいつもテレビでお会いしてますけどね」


「いや〜。お恥ずかしい。あ、でもいつも見て下さってありがとうございます」


「砂漠地帯でゼブラさんに会ったって本当ですか?」


「そうなんです!ナミビアで幻のサソリ料理を求める企画の時にばったり出会いまして」


「いや〜。世界も狭くなりましたね。…と、さすがゼブラさん、噂をすれば影ですよ」


亜弥はゼブラのように耳は良くないが、それでも彼が近付いてくる気配は分かる。

なにせ、遠くから逃げ惑う叫び声がしたかと思うと、モーゼの起こした奇跡のように人々が道を開け始めるのだ。

その中心部にいるのが彼でなくて誰だと言うのか。


「あんだ?てめぇら俺の噂話でもしてやがったのか?」

たった今会場に姿を現したはずなのに彼はもう道着を着ている。もしかしなくてもその格好で来たのだろうか。これには小松も亜弥も引いてしまった。

「ナミビアでお会いした時の話をしてたんですよ。それより、大会本番に帰国が間に合ってなによりでしたね!ゼブラさん!」

久しぶりの小松節にゼブラも内心機嫌が良いのだろう。「へっ」と一言吐くと「調子に乗るなよ」と懐かしいフレーズを口にした。


「お、ゼブラ!お前アフリカのどっかで国境警備隊に拘束されてたって聞いてたけど、いつ出てきたんだ?」

トリコがニヤニヤしながらゼブラをからかう。

「そのまま解放されなかったらオレが迎えに行くしかねぇかと思ってたけど、なんとかなって良かったじゃねえか!」

「ほざけコラ!あんな場所俺1人でいつでも出られるに決まってんだろうが!調子に乗るなよ!」

「あぁ〜、懐かしいですね。」

小松が笑えば、亜弥もにこやかに「そうですね〜」と返す。


「ほら、この騒がしさのおかげでサニー君も迷うことなくこっちに向かって来てますよ」

亜弥が今度はメインゲートを指差す。

「あ、本当ですね!サニーさん!お久しぶりで〜す!」

手を振る小松に応えるように軽く右手を上げてこちらに向かってくるサニーは、大会出場選手とは思えない程洒落た格好をしている。

まだまだ冬本番の寒さが続く今の気候を、真っ赤なジャケットに真っ赤なスカーフを巻いて楽しんでいる。


「はっ。相変わらず変わり映えしねぇな、お前ら。学生時代とナンも変わってねーじゃん」

そういう彼のセンスは進化したのか、別次元に行ってしまったのか亜弥には判断しかねるが、とにかく、これでIGO大の四天王が久しぶりに集結した。

全員が長身で目立つ上にそれぞれが今大会の優勝候補とあって、ギャラリーの取り巻きも徐々に増えている。

「そうだ、良い機会だから今の内に渡しておこう」

ココが、突然手をポンと叩く。

そして亜弥の方を向いた。

「亜弥、あれを」

「あ、はい」

呼び捨てで呼ばれた亜弥は、特段リアクションもなくバックの中を少し物色し始める。


「ココお前、今…」

トリコが思わずココを指差そうと上げた右手に、亜弥が1枚のカードを握らせた。

「ボクは、配偶者でもない女性を呼び捨てにするような品のない男じゃないからね」

ココが勝ち誇ったようにそう告げる。

亜弥は、1人1人にカードを配って回る。

そこには、古城をバックに寄り添う2人の写真と『私たち、結婚しました』と書かれたメッセージが添えられていた。


「…は?」

サニーが目を丸くして亜弥を凝視する

「いつ?てか、これどこ?」

「年末に、イタリアで。ちょっと寒かったね。」

今度はもっと暖かい時期に行きたいな

その台詞を聞いた次の瞬間、3人がココに襲いかかった。
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