IGO大学体育会美食道部

□葉月
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【8月】

夏真っ盛り

夏休み真っ最中

セミは大合唱

それでも美食道部に休みはない。

 

さすがの美食道部もお盆の間だけは休みになるらしいが、それ以外は大学に人がいようがいまいが関係ない。
IGO武道館からは毎日ミット蹴りの音が聞こえてくる。

「どうした亜弥!へばってんじゃねぇぞ!」

…あと、怒鳴り声も…。

「てめぇ、昇級したんだろ!?いつまでも白帯気分でちんたらやってんじゃねぇぞ!」

「はい!」

そうなんです。
 
実は私もサニー君も先月末にめでたく昇級し、今は黄色い帯を締めています。
 
黄色い色はまだまだ弱っちい感じがするが、それでもこれは確実な一歩だ。
 
そして間違いなくサニー君のカラフル具合は増した。
(本人は早く赤帯が締めたいらしい。理由は分からないが、黒帯じゃないあたりが彼の美しさ至上主義の徹底っぷりを良く表している)

 
いや〜
 
それにしても暑い
 
道場にはもちろん空調なんてないので、開け放たれた窓だけが頼りだが、そんなに大きな窓じゃないし窓がある位置も限りなく床に近い所なのであまり意味がない気がする。

「よーし!じゃぁそろそろ組手するか!」
「ってオイ!号令はオレの役目だろうが!てか勝手に決めんなよ!今日は今からコンビネーションの練習するんだよ」
「あぁ〜?んなもん、組手しながら練習すりゃ良いじゃねえか!」
「いーや、コンビネーションにゃパターンの反復練習も必要なんだよ。」
「んだとコラァ!良いから組手しようぜ!」
「だからまだしねぇって!」

この暑さの中トリコさんもゼブラさんも本当に元気だ。
元気過ぎて羨ましい。
 
それにしても彼らのエネルギーは凄まじい。
だからだろうか?トリコさんもゼブラさんも今日は2人ずついる。


あれ?

「亜弥?」
 
サニー君は3人見える。
すごーい
カラフル過ぎてお花畑みたい。

「亜弥…?」

あ、4人に増えた


――――――――――

――――――――

――――――

――――


「あれ?」

ぱかりと目を開けたら、私は窓際で仰向けに寝転がっていた。

「あぁ、亜弥さん、まだ寝てて下さい」

小松さんがにっこり微笑んでいる。

「え?」

あれ?

「軽い熱中症です。今日は本当に暑いですからね。しばらくそのままでいて下さい」

私は慌てて起き上がる。

「すみませんでした!もう大丈夫です」

うわ〜
記憶が飛ぶとか初めてだ
 
そう思いながら立ち上がろうとしたら、目の前が少し暗くなって、見上げたらゼブラさんがいた。
ぎぇえ!また例のマシンガントークが来るぞ!と構えたが、彼は意外に私をただじっと見つめる。

「あの…」

「邪魔なんだよ」

「っ!」

「邪魔されるくらいならいねぇ方がマシだ」
 
分かるか?
 
そう言われて、頷きながら道場中央を見れば、トリコさんとサニー君がこちらをチラリと見たが、すぐにお互いを向いてコンビネーションプレイの練習を始めてしまった。

それっきり、ゼブラさんは何も言わずに練習に戻って行く。

「ゼブラさんなりに、亜弥さんの事を気遣っておられるんですよ」
 
小松さんがそっと教えてくれるが、さすがに私もそれ位は分かるようになっている。
 
あの言葉の中に本当には「大丈夫か?」とか「無理しなくて良いぞ」とか、私を思いやる言葉が隠されていた事も。
それでも、あんなにはっきり、静かに「邪魔だ」と言われてしまうと、むしろいつもの怒鳴り声が恋しくなってしまう。
 
あの怒鳴り声は、私の為を思って言ってもらってたんだよな。
 
もっと、ちゃんと一言一言受け止められるようになりたいな。
 
ボロボロになったミットを修繕する小松さんの隣で横になり、私はトリコさん達の練習をいつまでも眺め続けた。


「ちなみに亜弥さん」

「はい」

ミットを縫い直した小松さんが控え目にこちらを覗き込んでくる。

「今日のお昼はどんなものを食べられたんですか?」

「え?」

「毎日の練習に耐えるには、3食しっかり栄養バランス良く食べる事が大事なんですよ。さ、教えて下さい」

そうか、小松さんは家政学科の学生、栄養学のエキスパートだ。きっと色々と為になるアドバイスがもらえるに違いない。
 
自分の食生活を告白するのはちょっとてれるが、致し方ないな。
 
私は正直に小松さんに昼食の内容を伝えた。

「アイスクリームです」
「え?あ、はい。えと…そうですか…。じゃあ、その他は?」
「?」

「亜弥さん、もしかして…」
「はい」
「昼食は、アイスクリームだけだったんですか?」
「はい、好きなんです、アイスクリーム」

少しの間をおいて、道場中に小松さんの叫び声が響き渡った。
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