IGO大学体育会美食道部

□卯月
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「疑うなんてひでぇなココ!こう見えて毎日真面目に勧誘してんだぜ?じゃあ、今日の5時から第3体育館で見学会やってっから、動きやすい格好で来いよ!」

え?

見学参加確定ですか!?
 
それだけ言うと、トリコと呼ばれた人は、ココと呼んだ人となにやら学食の話で盛り上がり始めてしまった。

いや、さっきも言いましたけど、私とてもじゃないですが運動部には入れそうにないんですが…と言い掛けたが、今がこの場を逃げ切る最大にして最後のチャンスだと感じた私は「じゃあ、失礼します…」とだけ声をかけてその場を離れた。

次の授業までまだ時間がある。
 
私はとりあえず図書館に向かいながら、髪を整える振りをしつつ、熱くなっていた頬をこっそりピタピタとした。

(いや〜、あんなイケメンがこの世にいたとは)
 
テレビの世界でしか見た事のないような、完璧な容姿だった。
 
あんなに格好良いのに、優しげに笑って私の事を気遣ってくれた。

うわぁ
大学って、すごい。

 
ちょっと的外れな感想を抱きながら私は進路を変える。

今の内に一旦アパートに戻って、動きやすい服を取って来よう。
もしかしたらあの人と同じ部活ができるかも?

そんな事を考えた私はちょっと浮かれてスキップしそうになる自分を慌てて落ち着かせた。


※ ※ ※ ※ ※ ※


大学構内には体育館が幾つも存在する。
 
そしてそれぞれが異なる設備を有している。

例えば第1体育館には体操の設備とバレーコートが

第2体育館にはバスケコートにバトミントンコート、更に屋外にはテニスコートが隣接されている。

そして私が訪れたここ第3体育館は別名IGO武道館と呼ばれ、剣道場に柔道場、そして屋外には弓道場となんと相撲部用の土俵まで備え付けられている。

(体育館は、全部で第8まであるらしいが、さすがにまだ全部は把握し切れていない)

16時50分、とりあえず女子更衣室を探してジャージに着替えた私はトリコさんを探してみる。

…が、まだ来てないようだ。

体育館内は人で溢れていて、袴を履いた人や胴着を着た人なんががあちこちにいる。
 
ていうかそもそも美食道って、どんな格好して何を練習するんだろう?
 
柔道とか剣道とか合気道に似た感じなんだろうか?

そんな事を考えながらキョロキョロしていると、美食道同好会のブースに置いてあった立て看板を見つけた。

縦長の白い看板にはシンプルに「来たれ!美食道同好会!」とだけ書いてあって、やっぱりこれだけじゃあ何をするのかさっぱり分からない。

とりあえず、この近くで待っておこう。
そう思って立て看板の隣に立った私は、何気なく見た方角にいた人に呆気に取られ、ポカンと口を開けたままでしばらく固まってしまった。

うわー
うわー

大学って、大学って、本当にすごい。

そこには、やたら大量の、しかもカラフルな髪をぐるぐると巻き上げたモデルさんみたいな人がいた。

その人は、私の不躾な視線に気付いたのかこちらにやって来る。

うわわ
どうしよう!

「…前も新入部員か?」
「…はい?」

てっきり不躾な視線を非難されると謝罪の言葉を口の中に用意していた私は、一瞬言われた内容が頭に入って来なくてちょっとポカンとしてしまう。

「これ、美食道同好会の看板じゃん?」

「え?…という事は、あなたも美食道同好会の方ですか?」

彼と看板を交互に見ながら私はそう尋ねる。

「そ。前と同じ1年。ま、俺はもう仮入部してっけどな」

カラフルな彼はサニーと名乗った。
ジャージ(色はショッキングピンク…)に、これまた薄いピンクのノースリーブシャツを着ている。
 
正直ださくない?とも思ったが、不思議と彼の雰囲気にはマッチしていた。


「お、来たな!サニーもお疲れ!」

と、そこに例の青髪の男性、トリコさんが現れた。
人の顔を覚えるのはあまり得意じゃないが、彼は特別だ。こんなに特徴的な人、忘れたくても忘れられない。

「じゃあ、早速道場に入るぞ!」

彼は柔道着のような服に着替えていて、元気良く私達を誘導する。

そうか、やっぱり武道系の格好をするのか。

初対面ではお互い椅子に座っていたが、立ち上がった彼はかなりの長身だった。正直見上げ過ぎて首が痛くなりそうだ。

そんな取り留めのない事を考えながら彼の後ろを歩いていると、着いた先は柔道場だった。

「さ、神聖な道場に入る前には必ず挨拶をするんだ」
いいか、こうだ。

そう言うと、トリコさんは背筋を伸ばし両足をぴったり付けた姿勢になって、両手を胸の前で合わせると気合いの入った鋭い声で一言発した。

「いただきます!」

その瞬間、私はここに来てしまった事を全力で後悔した。
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