IGO大学体育会美食道部

□文月
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【7月】


「くそ〜!オヤジのやつ、ココが『真剣』ならオレは『木刀』だなんて、舐めやがって」


OBの皆さんが来られたあの日から数週間
 
未だにトリコさんは会長の『木刀』発言を根に持っているみたいです。

…木刀もかなり痛いと思うんだけどなぁ。

「てめぇの器じゃあ、いつかその『木刀』が研ぎ澄まされても『ナイフ』ぐれぇにしかならねぇんじゃねえのか?」

がはは、なんて笑うゼブラさんの発言は、きっとつまり「おいトリコ暇だな組手しようぜ」って意味なんだと思います。

「いや、ナイフ馬鹿にすんなよ。美味い飯食うにはナイフ必要だろ?てかオレはそんな事より、お前が全く『鞘』を持たない事の方が心配なんだけどなぁ」

「あぁ!?じゃぁてめぇは持ってんのかよ、その『鞘』とやらを!見せてみろよ!オラ!」

ははは…
ゼブラさん、『鞘』があれば余計な争いは起きないはずなんですがね。


あ〜、でもゼブラさんなら例えいつか『鞘』を手に入れたとしても、その『鞘』も使って戦いそうだなぁ。


なんて、心の中で突っ込む私の調子はすこぶる悪い。

新入生気分も少し抜け、意外に早くやってきた初めての試験シーズンにあたふたし始めている今日この頃、美食道部の練習はそんな事お構いなしに相変わらずハードだ。
 
そして私はかなりヘロヘロだ。


…今日は女の子の日なんです…


いきなり露骨な話で申し訳ないが、美食道部の道着は真っ白なので、さっきからかなりハラハラしている。
 
いや、流血自体はこの部は日常茶飯事だから別に誰も気にしないのか?
 
何にしても、この部は熱が高くない限りは休めないし、男の人ばっかりの部でこんな事言い出せないので、私はゼブラさんにどやされながらも、なんとかその日の練習を乗り切った。


※ ※ ※ ※ ※ ※
 

練習終了後、だらだら着替えてから外へ出ると、サニー君がいた。

愛車のバイク(ピンク…かと思いきや、まさかのメタリックシルバーだ。確かに、ピンクの服着てピンクのバイクじゃぁどこかの写真好き夫婦になってしまう)に跨って、エンジンを噴かしている。

「おつかれさま〜」
 
ちなみに私はチャリ通だ。
 
免許を取るなんてまだまだ先の事だと思っているが、こうして同期がバイクを乗りこなしてるのを見ると、なんだか不思議な気分になってくる。

「違うし」
「え?」
「後ろ」
「うしろ?」
「いいから早く乗れって」
「…へ?」

思わずマジマジとサニー君を見てしまう。

「前、今日しんどいんだろ?このビューティーなバイクで家まで送ってやるよ」

だから早く乗れと言われて、私は赤面してしまう。
 
今日がアノ日だとバレたのも恥ずかしいし、バイクに2人乗りもした事ないし…えぇ〜?

私の動揺が移ったのか、サニー君はツンと前を向いて「うち、妹いっから。そういうの結構分かるし」と言い訳を始めた。

「え?妹さんいるんだ。年近いの?」
「中3」
「サニー君の妹かぁ。可愛いんだろうなぁ」
「全っ然!このオレ様に比べたら、髪の毛ボサボサだし、肌もダメダメだし、土管みてぇな体してっし、マジ有り得ねえヤツだし」
「そうかぁ、可愛いんだぁ」
「おま、人の話聞けよ!?…まぁ良い。ホラ、かぶってろ」

そう言って彼は私にヘルメットを差し出した。
 
実は私のアパートと彼のアパートは逆方向だ。

「…ありがとう」
 
今日は確かにしんどいので、かなり助かる。
 
そうして私はサニー君の後ろに乗せてもらって送ってもらう事になっ…

「ぶ!っサニー君!タイムタイム!」

らなかった…

「あ?んだし?」
 
「ちょ、ごめんけど30秒待って!」
 
そう言って私はサニー君の髪の毛をさっくり三つ編みにする。
2人乗りでサニー君の背中に掴まると、彼の大量のカラフルヘアーに埋もれて窒息してしまいそうになったのだ。

「ああ!おまっ!何してんだし!?」
「え〜?だってサニー君てば髪の毛多すぎるんだもん」
「ちげーよ!この三つ編み!バランス最悪じゃねぇかよ!」
「は?」
「この俺様の美しい色合いを、んな適当に3つに分けんなって!」
「ええ〜?なにそれ?」
 
こう分けねぇと美しくねぇだろ!なんてサッパリ分からない主張を聞いて仕方なく三つ編みをやり直していると、やってきた車に軽くクラクションを鳴らされた。

「ん?」
「あ…お疲れ様です!」
 
黒い車に乗っていたのは、ココさんだった。

「やぁ、2人共お疲れ様」
 
窓を開けてココさんは「今道場空いてる?」と聞いてくる。

「あ、すみません。今は合気道部が使っています」と私が答えると、「そうか、残念」と一言だけ呟き、「それじゃ」と私達に声をかけてそのまま行ってしまった。

黒のローボディの車
 
去り行く車の後ろのガラスには「kiss」と書かれたワンポイントのロゴが貼られていた。
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