sirena
□solitos
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【ひとりぼっち:男性複数形】
ナナが初めて自分の正体を知ったあの日、キッスもその場にいた。
ナナは相当ショックを受けていた。
当然だ。
今まで自分は陸の生き物だと思っていたのに、本当は海の者だったのだ。
キッスだって、自分が実は空の者ではないと言われたらかなり動揺するだろう。
だから、次の日2人の雰囲気がいつもと少し違っていてもそれは仕方のない事だと思っていた。
それでも、ナナの足は元に戻っていたし、街に出掛ける2人の格好も今までと同じだったので、この奇妙な雰囲気もいずれは元に戻るものだと、そう信じていた。
しかし、グルメ研究所での用事を終わらせ、待ち合わせの場所に着いたもののナナは一向に姿を現さなかった。
そうして、ナナを探しに行くために一旦街に入ったココがしばらくしてから再び姿を見せた時、キッスは目を見開いた。
なんだこれは?
こんな彼をキッスは初めて見た。
普段から常に穏やかな雰囲気を纏っている彼は、今も物静かな仕草で自分に近付き優しく首もとを撫でてくれる。
しかし、その背後には怒りのオーラが立ち上がり、キッスでさえ後退りをしてしまいそうになるのだ。
こんな、冷たく、それでいて激しい感情をキッスは知らない。
嫌な事があれば怒る。
嬉しい事があれば笑う。
それはキッスにも理解できる。
では、今の彼は?
触れればそれだけで切れてしまいそうな鋭さをギリギリの均衡で内側に留め、それを解放させるタイミングを待ちわびているような…。
あぁ。
唐突に、キッスは理解する
ココは今から、「ハント」に行くのだ。
それが何かは分からないが、彼にはどうしても手に入れたい獲物があるのだろう。
今すぐにでも仕留めたい欲求を辛うじて抑えこんでいるが、この瞳にはもう獲物し見えていないはず。
ならば、自分ができる事は唯一つ、彼の翼となる事だけだ。
キッスは一声高く鳴き、ココに「早く乗れ」と促す。
ココはそんなキッスを見て、瞳の輝きを強くさせた。
「すまないが、急がなければならない。ボクが指示するから恐れずに飛んでおくれ」
そうして、キッスはココを背に乗せて西の空へと舞い上がった。