sirena
□sirena
1ページ/5ページ
【人魚姫】
節乃を手伝っていたココは、あまり機嫌が良くなかった。
彼女に近付く面々を見ているとどうしても面白くない。
それは
彼女の交友関係が広がる
=グルメ細胞保持者に出会う確率が上がる
=彼女に危険が迫る確率が上がる
という方程式が出来上がるからで、それは彼女にとっても自分にとっても望ましい事ではなかったからだ。
決して独占欲なんかではないし、彼女もそれは十分に理解していたはずだ。
彼女を守るという事と、彼女を束縛する事とは大きく違う。
それを自分はちゃんと理解している。
その証拠に、自分は既に彼女に伝えているのだ。自分のそば以外に行きたい場所が見つかったらいつでも行って良いと。
そして、どうやらその場所は案外すぐに見つかりそうだ。
良かった、とココは心から思う。
今まで必死に守ってきたのだ、離れる時に多少違和感は感じるかもしれない。
だがそれは今まで誠心誠意守ってきたからこその反応で、ある程度は仕方がない。
そう自分を納得させていた時、リムジンクラゲがぐらりと揺れた。
大きく揺れたのは最初だけで、揺れはすぐに小さくなった。
が、なくなりはしない
「なんじゃ?風にでも捕まったか?」
節乃が窓の方へ確かめに行こうとした時、にわかに上の階が騒がしくなった。
「ちょっと見て来ます」
急いで駆けつけてみると、皆一様に窓の外を身を乗り出さんばかりに眺めている。
ココの到着に気付いた小松はあっという間に涙をこぼし始めた。
「ゴゴさん!ゴゴさん!ドリゴさんが!!ナナさんも!!」
全く要領を得ない叫びに、しかしまさかと窓へ向かうココへティナが叫ぶ
「さっきの揺れでトリコが下の海に落ちちゃったのよ!しかもそれを追いかけてナナちゃんも飛び出しちゃったの!!」
「なんだって!?」
すぐさまココはキッスを呼ぶ。
しかしココの口笛に飛び出してきたキッスは、強風の中バランスを取ることができず、風に翻弄された結果リムジンクラゲの足に支えられたまま身動きが取れなくなってしまった。
こうなったら自分が直接行くまでだ。
一瞬の内にそう判断したココは窓に足をかけ飛び込もうとする。
それをすかさず鉄平が押し留めた。
「!?何をするっ!?」
思わず荒い口調で抵抗するココに、鉄平は冷静に話しかける。
「あれを見ろ。彼女だ。」
え?と動きを止めたココのそばで「トリコもいるぞ!」とマッチが叫ぶ
トリコを抱きかかえたナナはそのまま島のある方向に泳ぎ始めた。
「あれはライフの近くの無人島だ」
鉄平がそう説明する。
「ここは風が吹き乱れとる。とりあえずこの場所を抜け出さん事にはどうにもならん」
遅れてきた節乃が状況を理解した後で島へ向かうよう、リムジンクラゲに指示を出す。
島まで行けばこの乱気流からも抜け出し、トリコ達も回収できる。一時はどうなる事かと思ったが、全員が安堵の溜め息を吐いた。
「それにしても凄いスピードですね〜。ナナさんって泳ぎが得意だったんですね」
窓から下の様子を眺めながら関心したように小松がココに話しかける。
「片腕じゃさすがのトリコも泳げないだろうに、あのお嬢さん大したもんだぜ」
マッチも同意する。
「しかし早いな。オレでもあれだけの大男を抱えてあそこまで泳げるか…」
鉄平だけは、ただ関心しているという訳ではなさそうだった。
しかしココはそのどれにも反応しない、いやできない。
ただ、彼の驚異的な視力によって見えたものが一体何なのか。
何もできない状況の中、それを理解する為に必死に頭を回転させるココは、息をするのも忘れてその光景に見入っていた。