sirena

□fiesta
1ページ/13ページ

【パーティー】

ナナがグルメフォーチュンの駅で目覚めてから、なんと半年。

気が付けばこのグルメ時代とやらにも大分馴染んできたような、きてないような…。

元の世界に戻る手掛かりもさっぱり見つからないまま、今年が終わろうとしていた。


この世界にも四季はある。
もちろんそれは地域によって異なり、常夏の国や一年中雪に閉ざされた極寒の島だってあるが、ナナが知っているこの辺りは比較的普通に四季がある地域らしい。


随分寒くなってきたな、と指先をこすり合わせながら、ナナはココの到着を待つ。
こちらでは今の時期を師走、とは言わないそうだが、少なくともここグルメフォーチュンが誇る稀代の占い師―ココ先生―は毎日忙しそうに走っていらっしゃる。
やはり、師走とは良く言ったものだ。

そんな事を冗談めかして考えながら、ナナはキッスとの待ち合わせ場所に向かって歩き始めた。

ココがこちらに向かっているのは確認したし、きっと彼の長い足ならすぐに追い付いてしまえるだろうし、何よりじっと待つには寒さが限界だったのだ。

案の定、あっという間に追い付いて横に並んだ彼に「お疲れ様でした」と声をかける。
いつもなら優しく返事をしてくれるココなのだが、今日はなぜか気まずそうに「うん」と生返事をしたきり前を向いたままだ。
「?」
何かあったのかな?
聞いてみようかな?
ナナはしばし思案する。

彼との付き合いも短くはないので(まだ長くもないが)たとえ電磁波が見えなくてもナナは彼の状態がある程度は想像できる。

恐らくまず間違いなく何かがあったのだろう。
そして、それに対する対応がまだ定まってないのだろう。
その状態でもナナに話をするべきか、対応を決めてから話すべきか、多分まだ答えが出てないのだろう。

そう推理したナナは、とりあえず彼の好きなようにしてもらおうと、敢えて何も言わずに彼の横をただ歩いた。


―――――――――――


「ナナちゃん、実はね」

そう言ってココが話を切り出したのは、それからしばらく経って後、食後の紅茶に舌鼓を打っている時だった。

ちなみに今夜の紅茶はナナが淹れた。
さすがに紅茶の淹れ方だって覚えたが、何故か教えてもらった通りにやってもココ程美味しくは淹れられない。
なんだかちょっと悔しくて、でもまぁ自分はそこまで味にこだわらない人だから別に良いんですけどー、 なんて負け惜しみの台詞を頭の中で展開していたナナは、ちょっと反応が遅れてしまった。


「今日、店にこれが届いたんだ」

そう言ってココは一通の手紙を差し出す。
質の良さそうなクリーム色の封筒に、古風にも蝋で封がされている。

ココは、長い指先で優雅に中身を取り出すと、中身をナナに差し出した。

「年末大忘年会?」

それを受け取ってタイトルを読んだナナは、封筒の雰囲気とはちょっとズレたそれに思わずガクッとくる。

―IGO職員及び関係者の皆様へ―

ナナはまだこの世界の季節を一通り経験していない。

―日頃の感謝の気持ちを込めて、ホテルデリシャスにて1日貸切パーティーを開催します―

なので、この世界の年末・正月の過ごし方は知識のみでまだ実際の雰囲気等は知らない。

―この日限りは無礼講と致しますので、奮ってご参加下さい―

だが、どうやらこの辺りの文化は全く同じらしい。

「へぇ〜。良いじゃないですか。私の事は気にしないでいいんで、行ってきて下さいよ」

なんだ、何か悩んでいると思ったらこんな事だったのか。
ナナはすっきりした様子で残りの紅茶を口に含む。

開催場所はどうやらここから離れた大きい街みたいだが、数日彼が留守にするくらい、子供じゃないんだ、別に問題はない。

ここに残って、年末らしく大掃除でもしていよう。
キッスさんが行かないのなら更に問題なしだ。

だが次の瞬間、ナナは大きくむせてしまう。

「この招待状、ナナちゃんの名前も書いてあるんだ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ