sirena
□biblioteca
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【図書館】
散々悩んだ結果、ナナは週に3日、グルメフォーチュンにある図書館へ通う事にした。
とりあえず、この世界の事を勉強しようと思ったのだ。
つまり、自立に向けては一番遠回りな道を選んだとも言える。
この選択に関してはかなりの葛藤を伴った。
しかし、ココという人間を知るにつれ彼がかなり懐の広い人間だという事が分かり、また、ナナ1人くらい援助した所で本人の暮らしに何の支障も無い事が分かった今、こうなったらこの人をとことん利用してやれという境地に達したのだ。
そういう訳で、今は不本意ながらもヒモのような生活を送っているナナであった。
基本的に街中ではココと別行動を取る。
彼と知り合いだとバレると、とたんに様々なデメリットが降りかかって来るので、そりゃもう全力で隠す。
彼との関係を詮索されれば、嫉妬に駆られた女性達の攻撃に晒され、実は無害な身内だと分かれば、途端に手のひらを返したように媚びを売られて彼女達のアプローチに利用しようとされる。
つまり、ココと何らかの関係があると思われた時点でアウトなのだ。
今日も街の外れでナナはココに本日の合流時間を確認する。
必要な買い出しがあればメモを渡される事もあるし、彼自身が買い出しを希望する場合は大人しく町外れで待つ。
とにかく2人一緒には行動しない。
これが、この世界に来てから3ヶ月経ったナナが理解した摂理の中で最も有力な処世術だった。
図書館では、とにかく片っ端から本を読んでいく。
絵本だって昔話だって、一般常識に結び付く可能性があるので飛ばしたりはしない。
童話の中には、元いた世界と同じ内容の物もあり、かと思えば微妙に変わっている物もあり、そしてナナの全く知らない物もある。
もしかして、ここは全くの異世界ではなくて未来の地球なのではないか。過ぎた品種改良や環境破壊の結果、食に特化した世界が生まれてしまったのではないか。
そんな考察を行いながらも、答えはどこにも見つけられないまま、とりあえずナナは子供向けコーナーの読破に成功した。
図書館はいつも比較的空いていて、静かな環境はナナにとってなかなかに居心地が良い。
1日建物から出る必要もないため、いちいちクエンドンの出没時間を確認しておかなくても大丈夫だ。
さて、次はどのジャンルに挑戦するべきか。
やはりここは一番量の多い料理コーナーを攻めるべきか。
それともベタに歴史コーナーから行った方が良いのか。
2つのコーナーの中間地点で腕を組んで悩んでいたナナに、男性が話しかけてきた。
「お嬢さん、ちょっといいですかな?」
振り向いたナナは声の主が小柄な初老男性だと確認すると、安心したように「はい、何でしょうか?」とにこやかに応対した。
「儂はここの館長をしとる者なんだか、お嬢さん最近よくここに来てるね」
なる程、確かにどこかで見たことがあるなと思ったらそういう事か。
そう思ってナナは「いつもお世話になってます」と挨拶する。
いやいや、と手を上げて、男性…館長は笑顔で口髭を撫でる。
「この街は占いで持っとる為か、わざわざ遠い国から訪れる人はあっても、この図書館には誰も寄り付いてくれん。街の者ですら、だ」
そう溜め息混じりに呟いて、館長はガラガラの館内を眺める。
「あんたみたいな若い子がこうやって来てくれて、儂は本当に嬉しいよ」
そうにこやかに言われれば、ナナとしても悪い気はしない。
「そんな、ここはとても雰囲気が良くて、本の種類も豊富で、こんな良い図書館がこの街にあって本当に有り難い限りです。」
若干のリップサービスも含ませたが、館長は悪い気はしなかったのか、嬉しそうに笑って「ありがとう」と返してきた。
「それで、お嬢さんさえ良かったら、ここで少し儂の手伝いをしてみる気はないかな?」
「え?」
「実はここは儂が1人で切り盛りしとるんだが、最近年のせいか書架の整理がどうにも滞ってしまっておってな。お嬢さんに手伝ってもらえたら凄く助かるんじゃが…」
もちろんバイト代も少しは出すよ、と言われてナナは即答した
「宜しくお願いします!」
その即決っぷりに少し面食らった館長だったが、すぐに気を取り直したのか「松平じゃ」と手を差し出してくる。
その古風な名前にちょっとビックリしながらも、「ナナです」と握手を受け、「あの、ここに来られるのは週に3日なんですが…」と今更のように申し訳そうに告げた。
館長はほっほっほと笑いながら「ではまた明後日。宜しく頼むよ」とまた口髭を撫でた。