sirena
□cansion
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【歌】
出来るだけ彼の邪魔にならないように、と願いながらも僅か2日目にして手足に酷い日焼けをしてしまい、何もできないままに3日目も4日目も過ぎていった。
そして5日目、簡潔に言えば完全におんぶに抱っこな日々を送る事早3日、である。
日焼けは思ったよりも早いペースで良くなっていて、このままで行けば明日には包帯も取れるだろう、とはココの診断結果だ。
「それにしても不思議だね」
せめて足と顔の包帯ぐらいは自分で替えると言うナナを、手を使うと治りが遅くなるからとココは制した。
ナナにしてみればなんだか必要以上に包帯をぐるぐる巻きにされている気がする。
彼がする事なら仕方がないが、結果ナナはこの3日間、1人では何もできない状態にされてしまっていた。
「動けないのは仕方がない事なんだから、もっと開き直って甘えていいんじゃないかな?」
今日も包帯を替えてもらい、薬を塗ってもらいながら恐縮しまくっているナナに、手元から目線を動かすことなくココが聞く。
イケメンとの共同生活、そして上げ膳下げ膳の紳士的な対応…。
大分慣れてきたとはいえ、じゃぁ完全に自然体でこの状況に甘んじていられるかと言われれば、絶対にノーとしか答えられないナナなのだが、ココはむしろそんなリアクションの方が変だという勢いだ。
その発言に「いやいや、やっぱりどう考えても申し訳なさすぎますよ〜」と答えようとして、ふとナナは思い直す。
よく考えたら、ここ数日彼とはひたすらこのパターンの会話しかしていない。
そして会話はいつだって平行線だ。
もしかしたら決定的に何か相容れない文化的違いが私たちの間にはあるんだろうか?
普通に会話ができるからと、なんでもかんでも理解し合えて当たり前だと思うほど、ナナはメルヘンの世界で生きていない。
どちらかと言えば、異文化交流の経験も豊富な方だと思うし、ここは一つ、お互いもうちょっと根本的な部分にまで立ち入ってみて話し合いをするべきかもしれない。
そう考えたナナは、いつものように恐縮する言葉を発する代わりに、逆にココに質問してみた。
「じゃぁ、逆にお聞きしますけど、もしココさんが私と同じ状況になったとしたら、どう思いますか?」
そう聞けば、包帯を巻きかけた手をふと止めて、指先を軽く顎に持っていき、彼は少し首をかしげた。
うーん、さすがイケメン、悩む姿も様になる。
ナナはうっかりその仕草に見とれてしまいそうになる。
が!
これで誤魔化されてはいけない。
ここでホワンとなってしまってそのまま流されたら、またいつものパターンの繰り返しにしかならない。
もうすぐここにきて一週間。そろそろ少し彼の内面も見つめてみたい。
そう思ったナナは、彼から目線をそらすことなく質問を噛み砕く。
「ある日突然知らない人の家にご厄介になる事になって、好意に甘えて色々と日用品を揃えてもらった上に三食美味しい食事まで出してもらってるのに、ケガをしてしまって動けないまま傷の手当まで全部してもらってる、そんな日を3日過ごすんですよ」
自分で言葉にすると、本当にどうしようもない状況だが、事実なので仕方がない。
そうして、じっとココを見つめると、彼は小さく「うん」と一つ頷いて「確かに、少し申し訳無い気持ちになるね」と言ってくれた。
よし!と思わずガッツポーズする。
彼からついに肯定の返事をゲットしたぞ!
しかし、次の瞬間ふと気づけば、それはつまりナナの今の状態は彼に迷惑をかけているのだと彼自身に認めさせてしまった事になる訳だ。
わ、私は一体何がしたかったんだろう。
ナナは引きつった笑みのまま固まってしまった。