sirena
□comprar
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【買い物】
あっという間に小さくなっていくキッスの姿をしばらく眺めた後で、ナナは家の中に戻ることにした。
「どんな時でも笑顔でいってらっしゃい」は彼女の家の暗黙のルールだ。
前の日のムードを持ち越さないのは仲直りの為の大事な布石だと、小さい頃から親に言い聞かされてきた。
兄弟が多い家庭ならではの秘策だったのかもしれない。
とりあえず、玄関先でパンパンと足の汚れを払って中に入る。
…汚れてるようには見えないし、大丈夫よね?
若干ガニマタになりながら足の裏を確認するという、内面のおばちゃんっぽさが全面に滲み出るポーズをとってから、ナナはいそいそと室内に入った。
実は朝起きた瞬間からお腹がペコペコだったナナは、急いで台所に戻るとテーブルの上に広がっているイングリッシュブレックファーストに舌鼓を打つことにした。
(昨日は、本当にもったいないことしちゃったなぁ)
美味しいトーストをかじりながら、ナナはつい昨日の醜態を思い出してしまい、1人でテーブルにオデコをつける。
いい歳こいて泣き寝入りかますとは…自分でもびっくり引いてしまう。
(しかもココさんのベッドを占領するとか、マジで引くし…)
ソファを見れば、毛布が畳んで置いてある。ここで彼が一夜を明かした事は明白で、そう思うとなんだか笑顔でいってらっしゃいと言った事すら後悔してしまいそうになる。
朝食を平らげ、綺麗に食べる物のなくなったテーブルの上に置いた頭をしばらく右に左に揺すって唸っていたナナだが、どうやら前向きに気持ちを切り替える事にしたらしい。
「よし!」
一発気合いを入れて立ち上がり、ナナは食器を片付けるべく台所へと向かって行った。
―――――――――――
「た、高い」
ココの高身長に合わせた仕様になっているシンクで洗い物をするのはなかなかに難しく、四苦八苦しながらなんとか食器を片付ける。
次に何をしようかと思案しながら、そう広くない家を見回すが、家の中は綺麗に片付けられていて、特に掃除が必要にも見受けられなかった。
(となると次は庭の草むしりとか?でも外を裸足で歩いちゃダメって言われちゃったしなぁ…)
しばらく首を傾げて考え事をしていたナナは、すぐに名案を思いついたように手を叩き、我ながら良い事を思いついたと、1人台所へと足を急がせた。