sirena
□primero
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【第一】
何あの態度!?
キッスさんの「連れ」だっていうから、絶対良い人だと思ってたのに。
色々言いたい事はあったけど、キッスさんがすぐ寝入っちゃったもんだから(きっと今日色んな所に飛んでくれた疲れたんだろう)起こす気には当然なれなくて、私は1人でしばらく悶々とした時間を過ごした。
ちなみに、優しい彼は私をその羽の下に入れてくれている。
彼の背に乗った時以上に、彼の両翼の付け根のふわふわ感は高級ベッドのようだった。
(まぁ、でも、あんなに体格の良いイケメンもいたもんよね〜)
そこから、少しだけ顔を出してもう一度夜空を見上げる。
あのルックスだ。
芸能人とか、アイドルとかは疎い方だけど、もしデビューしたら売れまくるに違いない。
キッスさんはこれからも仲良くしたいし、できれば彼ともお友達になりたいなぁ、なんて思いながら、私はもう一度キッスさんの羽の下に潜り込んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
朝、と呼ぶにはまだ早い、東の空がうっすら明るくなった頃、私は強制的に目覚めさせられた。
別に誰かに起こされた訳じゃない。じゃあなぜ強制的かというと、自分の意思とは関係ない力、平たく言うと腹の虫さんに起こされた訳だ。
そりゃお腹ペコペコにもなるさ。
昨日、電車で目覚めてから何にも食べてないんだもん。
キッスさんは…まだ寝てるみたいだし、起こすのは忍びなくてそっと巣を抜け出す。
朝の光の中で、ようやく自分がどんな所にいたのかが見えてきた。
もう、今更どんなシュチュエーションに遭遇しても驚いたりはしないけど、それにしてもこの場所は凄い。
星明かりの下でパッと見ただけじゃ、ちょっと人里離れたのどかな場所なのかな〜なんて感じたくらいだったけど、いやいやとんでもない。
これは…なんと表現したら良いのか…。
うーん。
陸の孤島?
いや、あれは確か島の形状じゃない地域に対して使う表現だったよなぁ。
じゃあ…
断崖絶壁の…山のてっぺん?
でも、山っていうと先がとんがってる印象を受けちゃうなぁ。
ここはきれいに平地になってるし。
あのイケメンさん、相当な変わり者だな、こりゃ。
もしかしなくても、キッスさんと一緒にここに資材を運び込んで家を建てたのよね。
なんでまたこんな所に?
あ、もしかしてキッスさんのため?
それなら頷けるかな。
まだキッスさん同様寝ているであろう家の持ち主を起こさないように、そっと家の方に近づいて、色々と眺めてみる。
裏手には可愛いハーブガーデンがあって、キチンと手入れがされた植物達が朝露を浴びてキラキラしている。
家の周りもすっきりと整頓されていて、彼が体格に似合わず(いや、それは偏見か)結構几帳面だという事が見てとれた。
そして、丸いドーム状の家をグルッと回ると、キッスさんの巣からはちょうどドームに隠れてて見えなかったけど1本の木があった。
そしてなんと!
美味しそうな木の実も沢山なっていた!
(美味しそう!)
よそ様のお宅の物なのに、食べ物を見てしまったら忘れかけていた腹の虫さん達が一斉に騒ぎ始めてしまった。
(でも、持ち主の了解も得ずに取るなんて泥棒と同じよね)
もうちょっとだけ待たなくちゃ。
何度も視線をずらそうとして、キッスさんのところへ戻ろうとしても、体が木の前から動いてくれない。
(でも、あんなに沢山あるんだし、仮に1つや2つ食べちゃっても、そんなに支障はない…よね?)
背の高さになっている実は、見たことのない物だったけど、可愛いピンクとオレンジ色のグラデーションに、ほのかに香る林檎ような桃のような甘い香りに、引き寄せられるように手が近づいていく。
(もしかしたら、匂いの割に全然美味しくないかもしれないし。そしたら、きれいさっぱり諦めも付くし、一口だけ…一口だけ…)
手頃な実を1つもぎ取ってみる。
プルプルしてて、ジューシーな感触に、乾いた喉がいよいよ悲鳴を上げる。
ガブリ
…こ、これは…
甘い!
超ジューシー!
そして美味しい!!
こんなの我慢できない!
とりあえず、あのイケメン大男よりは親切そうなキッスさんを起こそう!
それで、キッスさんにお願いして、彼から了承を得て、それでもし可能なら、バケツ1杯食べてやるんだ。
凄い!
こんな美味しいフルーツ食べたの初めて!
とりあえず1個を一瞬で完食した私は、キッスさんの巣に戻るべく、足早に今来たルートを戻り始めた。
あんまり興奮してたんで、足元に置いてあったジョウロを思いっきり蹴っ飛ばしてすっころんでしまった。
し、しまった…。
案の定、すぐに裏口の扉が開いて、彼が顔を出し
そして、出会ってから2回目になるビックリ顔を見せてくれた。