sirena2
□vestido
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【ドレス】
最近めっきり使用する頻度の低くなってしまった自分の部屋で、ナナは1人ため息を吐く。
ココと親密な関係になって以来、この部屋はほぼ物置としてしか活用されておらず、朝晩の着替えの時くらいしか入室する事もなくなっていた。
つまり、今ナナは着替えの為にここにいる訳で、ため息の原因もそこにある訳で、服にそこまでこだわらないナナがため息を吐く理由と言えばそりゃもう1つしかない訳で。
ナナはもう一度ため息を吐いてから部屋を後にした。
―――――――――――
「え?サラダだけで良い?」
朝一番でハントに出かけてゲットした、「パイナップルーン」をスライスしていたココは、ナナからの申し出を復唱する。
内容が聞き取れなかった訳ではなく、その内容を訝しんでの反応だ。
それにただ頷くだけの反応を返すと、ナナはまるで逃げるように玄関を出て行ってしまった。
「ナナちゃん…」
恐らくキッスの元へ行ったのだろう。とりあえず彼女がキッスに乗ってどこかへ行ってしまうという可能性は低いと判断して、ココは朝食の仕上げに取り掛かった。
「キッスさん、正直に言って下さい!」
朝一番でいきなり巣に乗り込んで来たナナには別に驚かなかったキッスだが、直後に投げかけられた質問にはさすがに考え込んでしまった。
その沈黙を黙秘だと誤解したナナは、なんとかキッスから隠された事実を探しだそうとずずっと近付いてくる。
それを真正面から受け止めるキッスは、ナナにどう説明したものかと悩んだ結果、未だに何も解決策が浮かんできていなかった。
「正直に?」
そんな事を言われても、キッスは生まれてこの方嘘をついたことがない。誤魔化しや捏造に至っては挑戦した事もない。
それを知らないナナではないだろうに、とキッスは思うが、ナナはそんなキッスの思惑など全く思い至らないと言った様子で「正直に、です!」と更にぐぐっと前のめりに顔を寄せてくる。
「正直」
「正直…?」
「サッパリ分からん」
ズザザッ
グググっと溜めていたものが一気に解放され、ナナの体が前のめりに傾き、顔面を強打する。
「これだけ溜めといてそれはないですよ〜」
赤くなった鼻先を撫でながらナナは恨めしそうにキッスを睨むが、当の本人は何をそんなに大騒ぎしているのか全く理解していないのだから仕方がない。
「俺は別に平気だ」
それで、キッスはなけなしの気を遣ったあまりうっかり墓穴を掘ってしまう。
「ナナがどれだけ重くなろうが何も問題ない」
ガビーン
やっぱりそうなんですね。
そうだったんですね。
いや、キッスさんは悪くないんですよ。
なーんにも
これっぽっちも
これは私の問題ですから
朝からどうもお騒がせしました。
やたら短い文章をいくつも発しながらフェードアウトしていったナナを見ながら、キッスはなんだかスッキリしなかった。
こう聞かれたらこう答えて欲しいと最初からお願いされたら、キッスだってきちんと対応できるのだが、それでは乙女心とやらは満足しないらしい。
先日、ココのフルコースを集める途中でココに「この調子なら、いつかグルメ界にも行けるかもしれないね。」と言われた。
グルメ界に行けば、自分の同族に会えるかもしれない、とも。
その時はその言葉を純粋に嬉しいと感じたが、しかし、とキッスは今更悩み始める。
空の番長エンペラークロウですら、もしメスの思考がナナの言うところの「乙女心」仕様なのだとしたら。
(真剣に、独り身でも良いかもしれないな)
戸口で八つ当たりのあっかんべえをされたキッスは、ため息を吐いてから中断されていた羽の手入れを再開させた。