sirena3

□golpe
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ー 時は少し遡って、メテオガーリック実食前 ー




特別展望レストランでメテオガーリックの調理完成を待ちながら、トリコは1人豪快に酒を飲み続けている。

グルメテイスティングでは結構な量の食事をしたはずなのに、よくそんなにまだ飲めるな、と若干呆れながらも、マッチはそんな彼を好きにさせたまま、真剣な面持ちで隣のココへと向き直った。

「ココ」
「なんだい?」
「お前に聞きたいことがある」

ソフトドリンクを嗜んでいたココは、ふとそちらを向くと「ボクに占いの依頼かい?グルメヤクザの組長が?」とチクリと笑う。

「いや、生憎占いに頼るほど耄碌しちゃいねぇよ」
「では何を?」
「ナナの事だ」


「おいおいマッチ、いきなりなんだよ」

その名前に、勝利の美酒に酔いしれていたトリコが一気にシラフに戻って2人の会話に突っ込む

彼なりにフォローしようとしたのだろう

しかしマッチはトリコの方を向きもしない。真っ直ぐココを見つめたまま言葉を続けた。

「俺は今ココに質問してるんだ。いいから答えろ、今彼女はどこにいる?」


しかし、真剣な2人の視線が絡み合ったのはほんの一瞬の事で、その直後「みなさーん!お待たせしましたぁ!」と小松がライブベアラーを連れて展望フロアに登場した結果、会話はそこで一旦終了となる。

「おお!」
小松、ナイスタイミング!
トリコはこっそり小松に盛大な賛辞を送った。



結局、すっかり打ち解けていた2人のシェフに、打ち上がったメテオガーリックの流星のごとき煌めきと、目まぐるしい展開にすっかり話題を奪われ、ナナの事は曖昧なまま5人はすぐさまジダル国王の居城に移動する事になる。


彼女がまだカジノにいるのかどうかの確認もできないまま、マッチが再びグルメカジノへと戻ってきた時には、辺りはすっかり朝を迎えようとしていた。


「往復で千キロ以上も移動してなんの収穫もなしか。あ〜、なんか腹減ったなぁ」

白み始めた空を見た瞬間また食事の事を考え始めたトリコに、ココと小松は呆れながらもお互いを見合って笑う。

「それにしてもメテオガーリック、ものっそい効果ですね。結局完徹になっちゃいましたけど、全然辛くありません!」

「そうだね。せっかくだし、もう少しカジノで遊んで帰るかい?」

「いいや、眠くならねぇんだったらハントし放題じゃねぇか!この国もカジノも違法食材も後は全部マッチ達に任せてさ、オレ達はまた次の食材探しに行こうぜ!」

「も〜、トリコさんってば相変わらず『思い立ったが吉日』なんですから〜」

「まったく、トリコらしいね」


そんな、他愛もない事を言い合っていた3人は、マッチが誰かの姿を確認してそちらへ小走りに駆けて行った事を、あまり気に留めていなかった。

現れた3人組の背後にもう1人誰かコートを纏った人物がいて、何やらマッチと話している事も、認識はしていてもそこまで注意を払ってはなかった。


「ナナ、こいつらだ」

なので、そう言ってマッチが彼女の名前を呼びながら体を動かし、彼女の姿がはっきりと確認できた瞬間、3人は完全フリーズという、全く同じリアクションを取ってしまう事になる。


その場を、暫しの沈黙が支配した。




「お前、ナナじゃねぇか!いつジダルに来たんだよ?」

真っ先にフリーズ状態から抜け出しそう叫んだのはトリコだ

「うわぁ!ナナさん!お久しぶりです!」

小松もすぐに気を取り直し、嬉しそうにそう言って彼女に駆け寄ろうとする。


「あの、こんばんは」


しかし、ナナと呼ばれた女性は、少し困った様子になってマッチの後ろに隠れてしまった。


その違和感にあれ?と小松が足を止める

ナナさんだったらきっと、『きゃー!小松さん、超お久し振りです〜!』なんて言ってくれると思ったんだけどな…


明らかに悲しそうな顔をした小松の様子を見た彼女は、慌てて「あの、ごめんなさい」と謝ってから、少し気まずそうにコートの裾を弄りつつ「えっと、私、実はここに来る以前の記憶がないんです」と眉を下げた。



「はぁ!?」

トリコが思わずココを振り返る

ココは目を見開いたまま、未だ微動だにしていない

「えぇ!?そ、それってもしかして、記憶喪失ってやつですか!?」

「はい、まぁ…」

小松の大声にちょっと面食らいながらも、彼女は申し訳なさそうにそう答えた



「2ヶ月ちょっと前か、うちのシマで拾ったんだ」

マッチがそう説明しながら、一歩一歩ココへと近付いて行く

そして彼のそばまで来ると、周りには聞こえない声でそっと囁いた

「何も覚えてないのはお前の仕業か?」


しかし、それでもココは微動だにしない

ただ、驚愕といった面持ちで彼女を見つめ続ける



「ナナさん!大変だったんですね!一体何があったんですか?って、それが分からないから大変だったんですよね!?」


一方、こちらでは小松が1人で勝手にテンパって、それを見て彼女は思わずクスリと笑っている。


そんな彼らのリアクションに意図的なものを感じなかったマッチは、改めてココを見ると「何があったのか知らねぇが、取り敢えずお前に返す。後はそっちに任せたぜ」と言い残し、側近の3人を連れてライブベアラーとどこかへ行ってしまった。








「食事を」


徐々に明るさを増す空の下、ようやくココが発したのはその一言だった


「食事でもしながら2人きりで話がしたい」


ココはそう彼女に依頼した

勿論、それが否定される事はない



その服装では入店が難しいと言われた彼女は、レストランの場所と待ち合わせの時間を確認してから、取り敢えずいつもの場所まで身支度に行く事になり、一旦3人と別れカジノの中へと戻って行った。



「おい、ココ。どういう事なんだ」


そして、その場には3人だけが残される。


異様なまでの静寂に包まれたその空間を、遂に登り始めた朝日がゆっくりと包み込んでいった。
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