sirena3

□casino
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それから、10日経ってもマッチは現れなかった

カジノでの生活にもボチボチ慣れながら「やっぱりな」とコトリは思う。

それでいい

別に彼が悪い訳じゃない


そう気持ちを切り替え、今夜も安物のドレスに身を包んで仕事に励もうとした矢先、まさかの来訪者がやって来た



「よう」

「こ、こんばんは」

「なんだその鳩が豆鉄砲食らったみてぇな顔は」

いつもの白いスーツに、珍しく誰のお供も付けず、マッチはそう言ってジロリと見下ろしてくる


「いやぁ、相変わらず凄みのあるお顔だなぁ、と」

嬉しくなってしまった自分を誤魔化すようにコトリがそう言えば、案の定「なんだそりゃ」と鼻で笑われてしまった。

「それじゃぁ、見せてもらおうか?楽しいところを案内してくれるんだろう?」

彼はそう言ってコトリに向かって右肘を付き出す

うわお、と思いながらもそこに腕を通して、二人はカジノを冷やかし始めた。


途中、やっぱりVIPスペースの話になる。
しかしコトリは結局その場所どころか、VIPスペースの噂が本当なのかどうかも確認できずにいた。
いくつか噂は聞いたが、確証は何も得られずじまいだ。


「そうか」

マッチは特にがっかりとした様子もなく、他愛もない話をしながらぐるりとカジノを回った後で、特に何をするという事もなくフロアの端までコトリを連れてやって来た。


もう良いのかな?
じゃぁ私の職場(と言っても良いのだろうか?)でも案内しようかな?

そんな事を考えながらマッチを見上げていたコトリがふと気付くと、彼がこちらを見下ろしていた。


え?と思った次の瞬間


コトリはマッチに抱き締められていた。


え〜〜〜〜!!

ぐっと腰に回された彼の左腕がコトリを少し持ち上げ、壁に向かって軽く曲げた彼の膝が両足の間に入り込んでくる。


「え、ちょ、マッチさん!?」

今夜のドレスは少しタイトなデザインになっているため、サイドにスリットが入っている。
彼の膝の上に跨がる様な体勢になった結果、コトリの左足は付け根の部分からほぼ丸見えな形で露になってしまった。

今のシチュエーションよりも、剥き出しの足が恥ずかしくてコトリは必死にドレスの端を引っ張ろうとする。
その動きを遮ってマッチは更にぐっと上半身を密着させてくると、その耳にそっと唇を寄せ「カメラ対策だ。いいから黙って合わせてろ」と呟いた。

「…カメラ…?」

意外な台詞にコトリは思わずそれを探してしまいそうになり、「怪しまれるだろうが」とマッチに突っ込まれてようやく動きを止める。

「ここのマイクは高性能だ。集音機能を上げられたらこの会話も筒抜けになっちまう」

彼はそう言って、あくまで客とグルメガールの戯れの様な雰囲気を演出した。


「3日後だ」

「はい?」

左手を腰に、右手を頭に添え、マッチの囁きに合わせて吐息が彼女の首筋を滑る

「3日後、俺達はここに総攻撃を仕掛ける」

「え!?そんな、どうしてですか?」

良く分からないが、ここは彼に合わせるしかない

コトリはそう考え、同じように彼の耳に顔を近付けるとそう小さな声で尋ねてみた。

「もう限界だ。これ以上何をしても麻薬食材はシマに流れ続ける」

マッチは辛そうにそう告げる

「黒幕は地下料理会だ」

「地下、料理会?」

そうだ、とマッチはここを真に牛耳っている組織の存在を明かすと、「そいつらか、更に上に指示を出してる奴がいるのか…とにかく俺達は『死ねば良い』って思われてるんだよ」と憎々しげに吐き捨てた

ネルグも、ジダルですら

「そうとしか考えられねぇ状況だ」

マッチの言葉に、コトリは愕然とする。

確かに彼女も今回の麻薬食材の件に関して、見返りの期待できないスラムの子供達にまで何故ばら蒔くんだろう?と疑問に思っていた。

…見返りなど求めてはいなかったのか

ただ、1人残らず麻薬食材と共に滅びれば良いと…?


「シマだけ潰れさせる訳にはいかねぇ」

コトリの髪に差し込んだ右手を少し強く握ってマッチはそう宣言する

「…それって、どういう意味ですか…?」


恐る恐る、それでも真っ直ぐに聞き返してきたコトリに「俺の首に手ぇ回せ」とマッチは指示を出した。

コトリは戸惑いながらも言われた通りマッチの首に両手を回す。

「いいか、3日後だ。その日は仕事に出るな。目立たねぇ格好して外で待機してろ。それでドンパチが始まったら真っ直ぐ北に向かって走るんだ」

彼の右手が自身の胸ポケットをまさぐったかと思うと、札束を取りだしそれをコトリのドレスの胸元へぐいと押し込んできた。

「中にアングラトレインのチケットが入ってる」

「アングラ、トレイン?」

「ジダルの中心地から抜け出す唯一の方法だ。言っとくが堅気なんかいねぇ危険だらけの旅になる。無事にこの国から抜け出せる確率は…半々ってとこか。すまねぇな」

「え? どういう事ですか?」

「アングラトレインに乗ってとにかくIGO加盟国まで行け。IGOに助けを求めるんだ。間違ってもグルメヤクザの名前なんか出すんじゃねぇぞ?」

「マッチさんは?どうするんですか?」

「四天王ココだ。トリコでもいい。何としてでもコンタクトを取るんだ。そうすりゃ多分何とかなる」

あぁ、やっぱり四天王ココなのか、と一瞬思ったが、今はそんな事を考えている場合じゃない

「駄目です!いくらマッチさん達でもここの警備とやりあうなんて流石に無茶ですよ!」

「ナナだ」

マッチは顔を離して、最後に彼女の顔を記憶に焼き付ける

「ナナだよ、お前の名前は。忘れるんじゃねぇぞ」



そう言うと最初と同様にいきなり身体を離すとマッチはカジノを後にし始めた

「マッチさん!」

「うるせぇな。金なら渡しただろうが」

「そんな、ちょっと待って下さい!こんなの、私イヤです!」

「んな事ぁ俺の知ったこっちゃねぇんだよ!さっさと持ち場に帰るんだな」

「マッチさん!!」

もうマッチは答えない

彼を呼ぶ何度目かの声に渋々後ろを振り向いたマッチは一言「風邪ひくなよ」と残してその場を立ち去った
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