sirena3

□casino
3ページ/6ページ




翌日、コトリの元をシンが訪れた

「うわぁ!お久しぶりです!」

マッチの言葉通り、彼らは今のところ定期的にグルメカジノを訪れてはコトリの様子を気遣ってくれている。
そして、慣れない様子で少しカジノを冷やかしては直ぐに帰ってしまうのだ。

最初の週はラムが来てくれ、次の週はルイが来てくれた。
だが、コトリとしてはこのちょっと抜けているけど何故か憎めない彼が来てくれたのが何気に1番嬉しい。

「どうしますか?カジノをぐるっと案内しましょうか?」

そう聞いてみれば、「じゃぁ、ラムもルイも行ってない所に連れてってくれ」とリクエストが返ってきた。

相変わらず張り合っちゃって〜

コトリはその発言を微笑ましく聞きながら、「じゃあ、ぞろ目の木でも見に行きますか?」と提案してみた。



かつてスラムへと向かっていたように、2人並んでぞろ目の木やポーカーの台を見て回っていると、「なんていうかさ、もっとこう、マッチさんに相応しいVIPな場所はねぇのか?」と突然シンが尋ねてきた。


「VIPですか?そうですね〜? あ、100面スロットルなんてどうでしょう? お姉様方曰く、あそこに行く客は上物が多いそうですよ」

そう言って100面スロットルに案内されたシンは、暫く真剣な面持ちで客の様子を伺っていたが、誰も当たりを揃える事ができないのを見て溜め息を1つ吐いた。

「どうしました?」

「いや、大当たりするヤツなんてそう滅多にゃいねぇんだなぁ、と思ってよ」

それを聞いて、コトリは笑う

「そりゃそうですよ〜。ぞろ目の木が揃ったのなんて私1回しか見た事ないですし、100面スロットルに至ってはベテランのお姉様方でさえ揃ったのを見た事がないそうですから」

そんなコトリの発言をシンは真剣に聞き入る。

「ぞろ目の木が揃ったヤツは、ぞろ目の実を手に入れたんだよな?」

「え?はい、そりゃもちろん…」

「そいつ、その実を持ってどこに行ったか分かるか?」

コトリはちょっと考える仕草をした。

「ええと、ぞろ目の実を美味しく食べられるのは、確かどこかのスイーツ専門店だったような気が…」

グルメガールから聞き齧った情報を今こそ披露する時だとコトリは張り切るが、シンは「そういう意味じゃねぇよ」とがっかりする。

「え〜!大事な事ですよ。7つ星だの8つ星だの言いながら、やっぱりお店によって得手不得手はあるみたいですし」

そのまま熱弁を振るい始めようとするコトリを制して「分かった!分かったよ!」とシンが帰り支度を始めた。

「前のお二人同様、お早いお帰りで」

「来週はマッチさんが来るからな。VIPな場所へ案内できるように色々下見しといてくれよ」

「うー。分かりました。確かに時々聞きますからね、VIPエリアの噂」

「マジか?」

ぐわっとシンが前のめりに聞いてきて、思わずコトリは仰け反ってしまう。

「え、えぇ。でもVIPって言っても『超VIP』の世界ですよ。さすがに年間通して一定額は遊ばないと入れてもらえないと思いますけど。…まぁ、一応お姉様達に聞いておきますね」

「頼んだぜ」

結局ラムとルイ同様、大して遊ぶ事なくカジノを後にしようとするシンを、最後にコトリは呼び止めた。

「スラムの子供達は元気ですか?」

「…みんな元気だよ。あんたに会いたがってる」

「そうですか…。もうちょっとしたら皆に仕送りも出来るようになると思いますんで、あと少し待っててね、って伝えて下さい」

「あぁ、じゃあな」

後ろ手にピラピラと挨拶しながらカジノを後にするシンの表情はサングラスに隠れて歪んでいた



みんな元気だなんて嘘だ。

つい先日、スラムの男の子がエレキバナナを食べてしまった。

麻薬食材だと知らなかったリーダー達が、良かれと思って食べさせたのだ。

末端価格が億は下らない食材の山が、彼らが「ハント」に出掛けたごみ捨て場にうず高く形成されていた

隣のシマの連中も、皆麻薬食材の餌食になって今や組自体が壊滅状態だと聞く




一体、目的は何なんだ


シンは最後にもう一度後ろを振り返った。
コトリは呑気に手を振っている。

だがその顔色は余り良いとは言えず、最初の頃よりも少し細くなってしまった印象を受けた。

呑気そうに見えて、ここでの暮らしは大変なんだろう。



黒幕を暴いてそいつらを叩き、麻薬食材を殲滅する

それは、いつかのセンチュリースープの捕獲作戦よりも難易度が高いのだと今ならはっきり分かる。


それでも、『彼』はあの時同様、決して諦めたりはしないのだろう

恐らく、相討ちになってでもシマを守ろうとするはずだ

シンとしては、シマよりもマッチの方が大事なので、どうしようもなければあのシマを捨てたって仕方がないのではないかと思う。

しかし彼がそんな事をするはずもなく


それなら、自分は最後までその背中に付いていくのみだ


シンは今度こそ振り返らず、結局何の手がかりもつかめないままグルメカジノを去っていった。


■□■□■□■□■□■□■□■□


それから5日後、夕方6時

グルメカジノの地下にあるスタッフ専用の生活スペースでコトリは惰眠をむさぼっていた。

昼夜の逆転し、日の光を一切浴びる事のない生活は何となく体調に支障を来している気がする。

と、そろそろ起きなくちゃなー、とは思いながらもなかなか実行に移せずにいた、そんなコトリの耳に、突然薄いドアの外から絶叫が飛び込んできた。


「ココ様よ〜!四天王ココ様がグルメカジノにいらっしゃったわ〜!!」


「…ここさま?」

うー、なんて言いながらなんとか起き上がって、コトリはボサボサ頭を廊下の外へ出す。

そこには、押し合うようにして我先にとカジノスペースへ突進していくグルメガール達がいた。

「あ!ちょっとアンタ!なにボーッとしてんだい!」

「え?え?何事ですか?」

いつも良くしてくれる先輩株の彼女も、流石に今は新入りに構っている暇はなさそうだ

「美食四天王のココ様がグルメカジノに来てるんだよ!上客中の上客さ!」

そう言いながら走り去っていく。

「きゃー!絶対あたしの事買ってもらうんだから!」

「なに言ってんの!それはこのアタシよ!それで、こんな生活とはきれいさっぱりおさらばしてやるんだから!」

えーと

コトリはポリポリと頭をかく

美食四天王?
なんだろう?

あれ?でも

そこでふと彼女の手がピタリと止まる

どっかで聞いた事ある名前だなぁ


有名人だからかな?

いや、ここに来るよりずっともっと前の話がする

えーと



『ココの奴も来てるのか』



「っ!」

いきなり身体中を電流が駆け抜けたようにコトリは反応すると、慌てて着の身着のままカジノスペースへ転がり込もうとして、警備の男に取り押さえられる

「バカ野郎、そんな格好でこっちに出て来るんじゃねぇよ」

「でもあの!ココって、ココって人に私会わないといけないんです!」

必死に拘束を振りきろうとしたコトリを警備の男は無理やり扉のこちら側に押し込めた

そしてニヤリと見下ろすと1つ鼻で笑う

「なに変な期待してんだよ?カリスマ四天王様に取り入ってここから助け出してもらおうってか?そんな雲の上の奴に取り入るより、俺に買ってもらう方がまだ成功率は高いぜ?」



どうする?なんて聞いてくる下卑た笑いに、ゲゲ!っと自ら扉を閉めてしまい、仕方なくコトリは取り敢えず身支度に取り掛かる事にした。



しかし、落ち着いて考えてみると、そもそも『四天王ココ様』とマッチが言っていた『ココの奴』が同一人物かどうかなんて分からない。

大体、そんな有名人と自分が知り合いだなんてあり得ない

あれ?私、なに焦ってたんだろう?

そう思い至った瞬間、控え室にゾロゾロとグルメガール達が戻ってきた。


「あんたが馴れ馴れしく近付きすぎるからだよ!」

「なによ!アンタだって下心丸出しでみっともないアプローチしちゃってさ」

皆機嫌はあまり麗しくなさそうだ

「ったく、しくじっちまったよ」

コトリの隣にいつものように腰掛けた女性が、ゴージャスにアップした金髪の中が痒いのか、櫛で掻きながらそう溜め息を吐いた



「帰った?」

「そ」

化粧直しをしながら彼女が答えるに、四天王ココ様は怒濤の勢いで押し掛けたグルメガールに揉みくちゃにされ、慌てて退散していったらしい。


「あらら」

という事は、もう会おうにもどうしようもないという訳か


せめて一応、本当に知り合いじゃないか確認でも出来ればと考えていたコトリはちょっとガックリする


まぁ、なんにせよ

帰ったものは仕方がない

こうしてコトリはそのまま通常勤務に入っていった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ