BOOK2

□一生懸命
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【一生懸命】








急に、何もかもが嫌になった。

習っていたダンスの先生に、ボロクソに駄目出しされて、腹が立ったのもたしかだ。気がつけば僕は練習室を飛び出してた。


僕らの仕事は、お客さんに完璧なステージをお見せすること。

どんなに練習がきつくても、それを完璧にこなして、完璧に歌いきって踊りきる。

過酷で死にそうになっても、それが仕事だと思えば何だってがんばれた。

僕は途中で投げ出したりしない。躓いたり、嫌になったとしても、決して諦めずに最後までやる。それが男だ。

僕は男だから、決められたことも云われたこともちゃんとやる。

けど、今のダンスの先生は嫌いだ。



.



テミンは楽しそうにダンスを踊っている。

何に対しても順応性がある。若さゆえなんだろうか。テミンにはそういう適応能力がある。

テミンのダンスはキレがあってかっこいいけど、見ているとどこか抜けてるところもあるんだ。けど、先生はそれでいいっていう。

そんなの完璧じゃない。

僕はそう思うのに。間違えてもへらへら笑って誤魔化してダンスをするテミンを、先生は賞賛して褒め称える。

それは、僕にとっては少しストレスだった。


他の3人は真面目に練習してる。練習量で言ったら、僕よりも少し少ないくらいだろうか。僕は別にもっとやってもいいのにっておもうけど、まぁ上の2人は年寄りだからしょうがないのかなって。口に出したらジョンヒョンに怒られたっけ。

もっと上手く。もっと高みに。

男なら誰だってそう思うはずだ。男性は女性よりも競争心が高く脳内にインプットされてる。

僕はメンバー二人みたいに歌が特別上手いわけじゃない。

だから、もっと練習して完璧なダンスをしたいのに、先生は僕のダンスは間違ってるっている。

もっと肩の力を抜けとか、楽しそうに踊れとか。それは完璧とは違うんだ。僕のポリシーには反する。

僕は先生が嫌いだ。だから嫌いなのかもしれない。

こんな自分にも、こんな事がうまく回せない自分にも嫌気が差す。


.



不貞腐れた顔で練習室に戻ったら、みんな呆れた顔して僕を見てきた。


ジョンヒョン「おかえり、」


key「怒ってないの?」


ジョンヒョン「別に?俺が苦労するわけじゃないし」

key「足ひっぱるかもよ?」

ジョンヒョン「俺がひっぱるわけじゃねーし」

key「パボ、」


ジョンヒョンの態度に安堵したように笑って。僕は一緒にコードやらイスやらを片付けだした。


key「ねー、」

ジョンヒョン「あー?」


ジョンヒョンは鏡の前でモップを持ったまま、モップの柄をマイク代わりにして歌うまねをしながらkeyに振り返った。


key「僕は何か間違ってると思う?」

ジョンヒョン「間違ってるとは思ってない。一生懸命にするっていうのは、正しいことだと思うよ?」

key「でしょ?」

ジョンヒョン「けど、一生懸命に練習したステージを見せて、keyはお客さんになんて言って欲しいの?ワーすごいね?頑張ったね?上手だね?」


key「・・・・」


ジョンヒョン「お客さんは俺らを評価してくれるけど、俺らは評価されるためにステージに立っているわけじゃないんだよ?評価はあとからついてくるものだよ」

key「・・・・」


ジョンヒョン「keyが、お客さんのために一生懸命頑張りたいのもわかる。けど、完璧じゃなきゃいけないわけじゃないんだ」

key「そんなの嘘だっ!」

ジョンヒョン「わかるよ?完璧じゃなくちゃいけないのは。だってそれを見せることが俺らの仕事だから。だけどお客さんは、俺らのステージが完璧だから見に来てくれるわけじゃないと思うよ?」


key「下手で見に来てるわけでもないよ」

ジョンヒョン「キボム〜」



ジョンヒョンは苦笑いして僕を見てる。理屈はわかるよ。僕にだって。

お客さんは、僕たちを見る時、楽しい気持ちになりたくて来てると思うんだ。気持ちが高揚する。一緒に居ると楽しい・・そんな気持ちを共有したくて、僕たちのステージを観に来るんだ。

だからステージはいつも楽しくならなくちゃいけない。楽しく踊るためにはまず、完璧にダンスを覚えなくちゃいけない。

その努力も、練習した量も、お客さんは何も知らない。

ただ今日だけのステージを観て、いいとか悪いとか評価するんだ。

だから僕は完璧に踊らなくちゃいけない。

いい評価をもらいたいから。


なのに――・・



ジョンヒョン「俺らとお客さんは、お互いのために存在してるわけじゃないんだよ?お客さんは俺らのためにいるわけじゃないし、俺らはお客さんのためにいるわけじゃない。どうしてステージに立ちたいのか、もう一度考えてみな?」


key「どうしてって・・・歌が・・、うたいたいからだよ・・・」


そう言うと、ジョンヒョンはにっこり笑った。


ジョンヒョン「そうなの。自分のためなの。お客さんが応援してくれるともちろん頑張れるけど、だからって応援してくれなかったら辞めちゃうの?」

key「辞めるよ!嫌われてまでやりたくない。降りろって言うなら僕は・・・ッ!」


怒ったように言うと、ジョンヒョンは宥めるように頭の上に手を置いて、優しく僕の髪を撫でた。


ジョンヒョン「けどもう、keyには応援してくれるひとがいるでしょ?」


key「・・っ、だから僕はその人のために一生懸命・・・っ!」


ジョンヒョン「じゃあその人がいなくなったら一生懸命やめるの?」


key「は・・っ?」


ジョンヒョン「keyは応援してくれるその人のために一生懸命になるんだよね?」

key「そ、れは・・・」

ジョンヒョン「恩着せがましく誰かのために頑張ってるって見せびらかすの?」


key「ち・・っ、」


ジョンヒョン「結局は、自分のためでしょ?」


key「・・!」


ジョンヒョン「自分が満足したステージを終えられるために練習してるんだ。それは、テミンの方がよっぽどわかってると思うよ?"自分がやりたいこと"がはっきりしてる。それは、言われたからやってるとは違う」


key「僕だって・・・・・・・っわかってる、よ・・」


ジョンヒョンはにっこり笑うと、うんうん、と頷くようにして、僕の頭を撫でた。



ジョンヒョン「難しく考えなくたって、俺たちはちゃんと新しいものになってるよ。成長することばかりに気を取られて初心を忘れちゃだめなんじゃないいかなっ、?お客さんは新しいものを観に来てくれてる。そこから成長してるかっていうのは、後からついてくる見方だよ。大事なのは、今までと同じことを続けていくことだよ。それでも、俺らは成長していると思わない?」


key「同じことの・・・・繰り返しでも?」


ジョンヒョン「繰り返しでも、100回続けることと1000回続けることは違うでしょ?すごいでしょ?新しいでしょ?俺らはいつも前に進めてるんだよ。だから、自分で今度・・好きなことに挑戦してみたらどうかな、」


key「すきな、こと・・・?」


ジョンヒョンはそういうと、僕の顔を見て安堵したように笑って、モップを片付けに行ってしまった。


自分の・・・・好きなことができるステージ…。


そんな日が、来るのかな。


・・・・来たらいいな。


そうしたらきっと、僕も一歩前に進める気がする。


このジレンマの中から。







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