BOOK2
□白い息
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韓国はもう雪が降りそうなほど寒かった。
多忙にいろいろと世界各国を飛び回っていると、季節を感じる感覚を失うらしい。
薄い裏地しかついていないコートを残念に思いながら、僕は白い息を吐く。
薄暗い路地のように細い道に曲がり、薄汚れた白熱灯の街灯の下を通りながらポケットに手を突っ込み肩を竦める。
ミノ「さむいね」
テミン「ヒョンが薄着なんだよ」
言われて横を見れば、テミンは去年から愛用しているもこもこのついたフードを頭からすっぽりかぶって暖かそうだ。
まるで羊にでもなったような顔をくりんと向けられて、僕はぽかんとする。
そういえばさっきから横に居るのに口数が少なかったかもしれない。
何かを考えてるように、黙ったまま立ち止まった末っ子に、ミンホは寒いけど一緒に立ち止まって、それから小首を傾げた。
ミノ「・・・どうしたの?」
テミン「・・・・今日、ヒョン誕生日だよね・・」
ミノ「うん・・・そうだけど」
テミンは黙ってる。
どうしたんだよ?と問えば、末っ子は急に神妙な顔をした。
テミン「・・・っ、ぼくっ・・ずっと待ってたんだけど!」
ミノ「・・・・へ?、ぇ?」
真面目な顔して言われたその言葉に、僕は少し考えたけど、テミンが意図することが見当たらなかった。
ミノ「え・・ごめん、何を?」
申し訳なさそうに言うと、僕の顔を見てテミンが少し肩を落としたのがわかった。
テミン「・・・・いい、」
なんでもない・・と元気のない声で言って、テミンはまた歩き出してしまった。
待ってよ、ごめん、なに?誕生日に待ってたものって?
僕は言いながら慌ててあとを追いかける。
もこもこのフードをかぶったテミンは、ずんずんと早足になって先を歩く。
待ってってば、と追いかけながら僕が少し駆け足になろうとした時。
テミンがピタリ、と止まった。
ミノ「・・わっ、」
思わずその背中にぶつかる。
僕は咄嗟にテミンの腰に手をついた。
すると、
ふいに重ねられたテミンの手。
テミン「・・・・僕、待ってたのに」
しずかな夜の道で。
白い息と吐き出された言葉。
握られた手の甲が、じんわりと熱に染まる。
ミノ「・・・ごめん、」
その言葉の意味を理解すると、同時に僕はもう重ねられてたテミンの手を上から握り直して、指を絡めてた。
シン・・と冷たい空気の中で、
どくんと体が熱くなる。
テミン「・・・・・僕、外でもいいよ」
お願いだからこんな日に箍が外れそうなこと言わないでよ。
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